NORi の水彩画|女性の視線を描く ~親子展 Mother & Daughter の誕生~


NORi
こんにちは、NORi です。

私が初めて絵に描いた人物は
母でした。

NORi
母本人に内緒で描き
絵画展に出品したのですが

そこで大賞を受賞し
会場に入るとすぐ目の前に
横幅が1mに迫るサイズで
自分の顔が飾られているのを見て驚く母が

ホロリと涙する横顔は
今でも嬉しい想い出とともに蘇ります。

NORi
今回は
そんな母との親子展
– Mother & Daughter –

についても
お話してみようと思います。

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《水彩画・女性》母の描き方。

earlysummer

『初夏』<透明水彩画>(90.9cm×72.7cm) by NORi

この作品は

明るい陽射しが庭いっぱいに広がる
初夏のひととき

幸せそうな顔で
花を摘む母の姿を描いたものです。
 

まず大切にしたのが
光の表現でした。

降り注ぐ光を
どのように表現したらよいのか

色選びや塗り方を
あれこれ思案したのを覚えています。
 

それにも増して
気を使ったのは

肌の色でした。

健康的な肌の表現と
美しい影の色作り出すために

初めての人物画は
いきなり暗礁に乗り上げ

試行錯誤を繰り返し
理想の肌の表現を研究してからの
スタートとなりました。

【水彩画のための影の塗り方】陰影の付け方とグリザイユ技法

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《水彩画・女性》無意識の視線。


上に書いたように
私自身は【色】と【塗り方】に力を注いで
母の絵を描いたわけですが、

客観的に見ると
もっと様々なことがわかるようです。

 

これは日本画の画家さんから
教えて頂いたことなのですが、

【構図】には
描き手の視線がとても良く表れる

ということでした。
 

視線というのは
もちろん

そのまま
どのようにその景色を眺めたか?

ということでもありますが、
 

その景色を
どこで切り取って絵にしたか?

という『心の選択の全て』
絵に表れている

というわけです。
 

私は
その後も人物画を描きましたが、

ここまで近づいて
画面いっぱいに等身大に近い大きさで
描いた人物はひとりもいませんでした。

 

花や果物を描いても
適度な余白を作ることを好み

大胆な構図は選ばない性格のようです。
 

そんな私が
母の絵だけは

これでもかという程
大きな画面いっぱいに

毛穴が見えそうな近さで描いているのです。
 

構図というのは
テーマに通じるものだと思いますが、

母を描くことで
改めて構図で伝わる視線というものを
学ぶことができました。

 

《水彩画・女性》母と娘の親子展 – Mother & Daughter – の誕生

母との親子展会場の様子 by NORi

そんな私が
とても大切にしているのが、

母との親子展
– Mother & Daughter –

です。
 

わたしが絵を描くきっかけとなったのが
アメリカで絵を描き始めた
母の影響でした。

アメリカでの透明水彩との出逢いについては
↓こちらでもご紹介しております。

NORi の水彩画|水辺の風景と睡蓮 ~透明水彩との出逢い~

アメリカで透明水彩に出会った母は、
父の7年間の転勤を終えて
夫婦で帰国しました。
 

アメリカで夢中になって絵を描いてきた母も、

日本で絵を描くことは
もう無いだろうなと思っていたそうです。
 

ここからは
母の絵の復活物語
を書いてみようと思います。

■ 母の帰国

日本を 7 年離れるということは
こういうことかと、

わたしは驚きとともに
両親の帰国を眺めていました。
 

自動改札に変わった最寄りの駅で
たびたび捕まってしまう母が可愛く見えます。
 

長年離れていた日本の生活に戻るには、
少し時間が必要だと、感じました。

 

空き家となっていた時間が長かったことで、
不具合が目立った自宅を
補修しなければならなかったり、

実際に、
しばらく絵を描く余裕は母にはなさそうでした。
 

しばらくして、
母にも少し余裕が生まれ、

久しぶりに友人と会う時間を
持てるようになっていきました。
 

長いアメリカ生活での土産話を両手に抱えながら、

懐かしい友人との再会は
とても幸せな時間だったことでしょう。

■ 母、個展を開く。

母にとって、
アメリカで夢中になって絵を描いてきたことは、

一番輝かしい思い出の一つです。
 

久しぶりに再会した気心の知れた友人達も
喜んで絵を見てくれたようです。

そして、
これだけ素晴らしい絵を沢山描いてきたのだから、

個展を開くべきだ
と強く薦めてくださる方が現れ始めました。

 

日本で自分が個展をするなんて
考えてもみなかった母は、

しばらく躊躇していました。

父や私も強く後押しをし、
ようやく
自分が描いた絵を楽しんでくれる人がいるのなら、

やってみようか
という気持ちになっていったようです。
 

そして帰国したその年に、
母は個展を開くことになりました。

これを皮切りに、
母は日本でも絵の活動を再開します。

■ 母、水彩画教室を開く。


その年の3月に帰国した母は、
11月に第一回の個展をひらき、

そして次の年の7月にも、
第二回目の個展をひらくことになります。
 

透明水彩の美しさに加え、
優しさと迫力に溢れた母の絵は、

多くの方に受け入れられていきました。
 

第二回目の個展では
絵を習いたいという声が集まり、

水彩画教室を開くことになりました。

その時から一緒に絵をスタートさせた
生徒さんの多くが

10 年以上経った今でも
母の教室に通ってくれています。

 

また、
その年の11月には
東京都立美術館で開催された
美術展に出品し金賞を受賞し、

母の絵の活動は
物凄い勢いで展開していくのでした。

■ 母、第三回個展にむけて。

娘のわたしはというと
母の絵の活動をサポートするのが
とても幸せでした。

母の絵をとても愛しています。
 

個展をするとなれば、
ポスターや

キャプション (絵の下に貼りつける、
絵のタイトルなどを載せたカード)
を作ったり

個展会場に必要なものを制作し、
 

会場づくりや
絵の設置レイアウトなどを考えたり、
業者さんと交渉するなど、

母の右腕となって
張り切って
個展の準備をするようになりました。

 

そして
ついに私も母の主催する水彩画教室に
通い始めました。

個展の補佐だけでなく、
母から絵の描き方をも学ぶことで、

母の絵の世界に文字通り “どっぷり” と
入っていくようになりました。
 

私が絵を始めてちょうど一年を過ぎた
7月のある日、

近所でも評判の、
とっても素敵な喫茶店の噂が
聞こえてきました。

お店の壁面に
作品を飾らして頂けるとの情報でした。
 

前回の母の第二回目の個展から
2年が経っていました。

最近の新しい作品も加えて、
母の第三回目の個展を開く計画を
立てることにしました。

■ 審査の時間。

お世話になった喫茶店の様子 by NORi

喫茶店のオーナーに
問い合わせたところ、

まずは 2, 3 点、
実際に絵を見せてください
とのことでした。

私は、
絵を持って行く荷物運びの助手として
母に付き添うことになりました。
 

母の代表作を原画 3 点と、
他の作品はポストカードに印刷して
持って行きました。

オーナーと挨拶を交わし、
早速、絵を一枚ずつ
見てもらうことになりました。
 

私は2人の席から少し離れて
見やすいように絵を持って
立っている係です。

ひととおり絵を観て、
オーナーはすぐに
素晴らしい絵なので
是非うちで個展をやってください、

と言ってくださいました。
 

その言葉で、
緊張した雰囲気が一気に和みました。

オーナーが
美味しい珈琲を淹れてくれました。

「お嬢さんも一緒にどうぞ。」

私もほっとして、
一緒に珈琲を頂きました。

■ 娘、張り切る。

オーナーは
『あまり絵のことは詳しくないので』
とおっしゃって、

色々と質問をしてくださいました。

絵を始めた経緯や受賞経歴、
そして絵の特徴など、

コーヒーを飲みながら、
オーナーと母が軽やかに話しています。

 

私は横でのんびりと
2人の話を聞いていたのですが、

途中から
なんだか母の様子がおかしいのです。

先ほどまでのテンポの良い会話はどこへやら。

『ん?あれ?どうしたのかな?』

なんだか言葉を慎重に選んでいるのか、
スムーズだった会話が途切れがちです。
 

普段、こんなことはありません。
『どうしたんだろう?』

娘である私の方が
ドキドキしてきてしまい、

気が付くとオーナーの前で、
母の絵の魅力や、
技法の特色を力説している自分がいました。

 

その絵をまるで自分が描いたかのように
熱く語る
私の姿は、

今振り返っても恥ずかしくて
赤面してしまいます。
 

まさに
「娘、張り切るの巻」
といった一幕でした。

■ 棚から牡丹餅


そんな私の勢いに、
オーナーは言いました。

「お嬢さん、詳しいね。
お嬢さんも絵を描くの?」

私はその言葉で、ハッと我に返りました。
 

「あっ、はい。」

「それじゃ、お嬢さんも
今回一緒にお店に絵を出したらいい。」

「えっ? 私もですか?

えっと、その、
まだ描き始めたばかりで。。。」

「いいじゃない。出しなよ。」

「あの、審査はどうしたら。。。」

「お嬢さんの絵はもう
見なくてもいい、いい。」

『えっ?見なくていいんですかー???』

思わぬ展開に、頭の中は空っぽになりました。
 

振り返って、母の顔を見てみると、
さっきの深刻そうに黙り込んだ姿は
どこへ行ったのか、

-面白いことになってきたぞ、
うしししし。-

と、顔に書いてあるかのような表情で、
母はとても楽しそうに笑っていました。

ちょっと疲れただけだったようです。
 

こうして、母の第三回目の個展は、

第一回、母と娘の親子展へと
変わることになりました。

■ Mother & Daughter 誕生

初めての親子展の様子 by NORi

オーナーのご厚意により、

この親子展は
1か月という長い期間、
喫茶店で絵を飾らせて頂きました。

 

そして、
これまでの母の個展に来て頂いた方や、
数少ない私の知人に
案内ハガキを送りました。

そこに載せた親子展のタイトルが、
– Mother & Daughter – でした。

 

友人知人が驚くほど遠くから
集まってくださり

本当に幸せな時間でした。
 

母の絵のファンの方々の前に
突然登場した娘でしたが、

私の絵についても
色々な感想を頂くことができ、

とても貴重な体験となりました。
 

こうして、わたしにとっては、

早い時期に自分の絵を見て頂く
という機会を与えられたことで、

自分が楽しくて感動して
絵を描くのはもちろん、

その絵を人に観て頂くことの意味や
喜びを深く感じながら、

制作に臨むようになりました。
 

オーナーの遊び心が導いてくれた
– Mother & Daughter –

ひよっこの私は
益々絵に邁進することになります。

【透明水彩の塗り方動画】絵の具の塗り方・技法・スケッチ

 

《水彩画・女性》おわりに。

『 Colors 』<透明水彩画>(90.9cm×72.7cm) by NORi

NORi
母を描いた作品をきっかけに
私は立て続けに
人物画も描いていくようになりました。

上の作品は
Colors 』というタイトルなのですが、

colorという言葉が持つ
2つの意味に掛けて
タイトルにしました。
 

一つ目は
色彩あふれる風景
という意味で

もう一つは
色とりどりの個性
という意味です。

【透明水彩の塗り方動画】絵の具の塗り方・技法・スケッチ

【絵を習うには?】水彩絵画教室を選ぶための5つのポイント