❶【哲学】自然の働きを写し取る|一枚の葉から60号の藤棚へ
こんにちは、NORi です。
私は、花よりも「葉っぱ」に強く惹かれることがあります。一枚の葉に宿る生命の秩序や、光を透過する深い色の重なり。足元に落ちている一枚の葉や風に揺れる名もなき草。
そんな小さな営みを私たちは往々にして見過ごしてしまいます。技術以前に、その美しさをどう受け止めるのか。形を写すこと以上に、その命の尊厳と対話したいとわたしは思います。
この記事では、私が60号の藤棚の大作に挑むまでのお話や、私の創作の根源にある「一木一草」の視点についてお話ししてみようと思います。
NORi
葉っぱの水彩画|1m超え60号サイズの藤の葉っぱを描く
『 啓示 』watercolor painting by NORi
上の写真は透明水彩で描いた
藤棚の絵です。
茨城県牛久市にある『日本遺産』
牛久シャトー内のレストランに
一年間、飾らせていただきました。
(2022年4月~2023年3月)
この絵は、
横が1m30cm × 縦が89cmの
P60号サイズの作品なのですが、
実はこの作品を含めて
藤棚ばかり15作品ほど描きました。
最初は小さなスケッチブックに
葉っぱだけを描くところから
始まったのですが、
4枚ほど描くと
だんだんと藤棚の木が
描けるようになりました。
それから配色のテストも兼ねて
ポストカード2枚分くらいの
小さな藤棚を色々な色彩で
7枚描きました。
それからA4サイズくらいの
作品に2枚挑戦したのですが、
やっぱり木だし
もう少し大きく描きたいな
と思うようになりました。
そして、
今度はまた違った
新しい色彩で
20号(横70cm)に挑戦しました。
その20号の大きな絵を眺めているうちに
「もっと大きく描いてみたい」
という想いが溢れてきました。
そしてついに
60号(横130cm)の絵を描くことに
なりました。
巨大な藤棚も、
元を辿れば無数の小さな葉の集合体です。
全体を描く前に、
その細胞一つひとつ(一葉)を愛でる。
その「まどろっこしい」ほどの誠実な対話が
絵に命を宿すと感じます。
まずはスケッチから
亀戸天神社の藤まつりの様子。 by NORi
限られた季節にしか咲かない花
というのは、
見に行く楽しみを作ってくれますね。
私はもともと藤が好きで
亀戸天神社の藤棚も見に行きました。
花を眺めながら
印象的な風景を写真におさめます。
足元を見ると
まだ散ったばかりの
美しい花や葉っぱが落ちているので、
それを家に持ち帰って
スケッチブックに貼りつけながら
「美しい色だなぁ。素晴らしい形なぁ」
と眺めています。
かわいい葉っぱの観察日記
スクラッチブックとスケッチ。 by NORi
このスクラッチブックは
花の形や葉っぱの形などの
細かい観察をしたり
デッサンをするときにも
とても参考になります。
花もいいのですが、
葉っぱ もとても魅力的です。
藤の葉っぱの形を観察してみると、
小さな葉っぱが
ほぼ左右対称に並んでいます。
少しずつ形を変えて
綺麗に並んでいる様子は
とても美しく感じます。
そんな、
葉っぱの様子をスケッチブックに
描き留めてみました。
葉っぱの描き方《スケッチ動画》
- 鉛筆:H (MITSU-BISHI Hi-Uni)
- 紙: スケッチブックA6サイズ(DRAPAS DRスケッチブック)
※ 音楽が鳴りますので、音量の調整をしてご覧ください。
(動画再生時間:1分46秒)
藤の葉っぱ観察スケッチ by Nori
藤の葉っぱ観察メモ
一つ一つの葉っぱの形は
先っぽが尖っていて、
葉のふちは滑らかに波打っています。
葉脈は、
葉の中心から左右対称に出ているように
見える部分と
そうでない部分がありました。
一連に並んだ葉っぱの形を比べてみると、
隣同士でも少しずつ違っていました。
スケッチブックの左側に位置する
根元の方についた葉っぱは、
三角形△の角を
まるくしたような形をしています。
スケッチブックの右側へいくほど、
(茎の先端側に向かうにつれて)
葉っぱの形は菱形◇を
縦に長く伸ばしたような形に
少しずつ変化していくように見えました。
60号の作品に葉っぱを描く
藤棚の下書き(鉛筆) by NORi
上の写真は
藤の葉っぱが生い茂る
藤棚を描いているところです。
観察ノートの記録や
デッサンを参考にして
藤の葉っぱを
ひたすら描いていきます。
藤(フジ:Wisteria floribunda)は
マメ科フジ属の植物で
蔓(ツル)が伸びます。
その流れるように
光を求めて伸びていく姿は
本当に美しさにあふれているように
私の目には映ります。
上の写真の藤棚の下書きをもとに
透明水彩で絵を描きました。
シンプルな葉っぱに塗る色は?
『 啓示 』<透明水彩(作品の一部)> by NORi
藤の葉っぱの美しさを表現するために
色えらびには時間がかかりました。
シンプルな構図なので
多様な色を使って表現するように
工夫しました。
かなり沢山の色を使って
塗っているように見えるかと思いますが、
少ない色数で
薄く塗り重ねるようにして
多様な色合いを表現してみました。
このようにすることで
60号という大きな画面でも
全体として統一感のある雰囲気を
大切にできたかなと思います。
小さなスケッチから始まった
60号の藤棚の制作は、
一足飛びにこの答え(完成)に
辿り着くことはできませんでした。
ここまでの小さな反復が、
筆の迷いを消し
大作の重圧を自信へと
変えてくれたのかもしれません。
葉っぱの水彩画|鮮やかな南国の葉っぱを描く
沖縄県の竹富島で撮影したブーゲンビリア by Nori
もう一つ、
わたしが魅かれている
蔓が伸びていく美しい植物が
ブーゲンビリアです。
ブーゲンビリア(Bougainvillea)は
オシロイバナ科ブーゲンビリア属の植物で
熱帯性の低木で
蔓(ツル)が伸びます。
眩しいほどの明るい沖縄の太陽の下で
イキイキと輝くブーゲンビリアを見たとき、
その姿にわたしは
一目惚れしてしまいました。
南国の明るく伸びやかな景色と重なり、
なんて美しい花なんだろう
と感激しました。
繊細な花びらと、
ツルが逞しく伸びていく姿が
生命力の素晴らしさや
生きていくということの本質を
思い出させてくれているように見えました。
その美しさに
心が躍るような喜びを感じて、
なんとしても絵にしたいと思いました。
葉っぱの色は何が決める?
鮮やかな色で咲き誇る
ブーゲンビリアですが、
色づいている花びらのように見える部分は、
実は『葉っぱ』が変化したものだそうです。
中心にある
シベのように伸びた筒状の部分が花で、
この筒の先端に小さな白い花が咲きます。
ブーゲンビリアの花のように見える
赤い葉っぱの色は
単調に見えるでしょうか?
透明水彩で絵の制作を始める場合には
あらかじめ全体のイメージを把握してから
塗り始める方が
美しい色をキープしやすいと思います。
透明水彩では
一度塗ってしまうと
色の修正が難しいためです。
そこで、
どのようにして色を選ぶのか?
ということですが、
その絵を描こうと思った
自分の感動をもう一度思い出す
ということが
とても大切だと感じる出来事がありました。
ここからは
私が実際にブーゲンビリアを描くまでに
色の奥深さを実感したエピソードを
ご紹介してみようと思います。
沖縄スケッチ旅行で体験した色の作り方
沖縄スケッチ旅行の様子 by nori
沖縄は
スケッチ旅行のために出かけた地でした。
水彩グッズを持参していたので、
まさに、上の写真のような
石垣に咲くブーゲンビリアの絵を
まずは描き始めました。
ブーゲンビリアの美しさに圧倒されながら
鮮やかな色を描き留めたつもりでしたが…
ホテルに帰って絵を眺めてみると
なんだか『 つつじ 』のように見えました。
色はあっていても
形が違うのです。
全くブーゲンビリアの花の特徴を
観察できていませんでした。
もっと、もっと観察が必要だと感じ、
わたしは次の日
もう一度、同じ場所へ
ブーゲンビリアを見に行きました。
まずは形から。
沖縄で描いた観察スケッチ (鉛筆) by Nori
ブーゲンビリアを観察しながら
小さなスケッチを描きました。
少しずつ『つつじ』とは違う
ブーゲンビリア独特の形が
分かり始めてきました。
沖縄から帰った後も、
ブーゲンビリアの美しさに魅せられたまま、
なんとか素敵な絵にしたい
とずっと思いながら、
絵の構想を温めて続けました。
透明水彩の美しい色調を
存分に発揮して
最大限にブーゲンビリアの
美しさや逞しさを表現できたらいいなと、
そう思いました。
それから色へ。

沖縄で描いた観察スケッチ (水彩) by Nori
沖縄で感じたものを忘れないようにと、
わたしは現地で沢山の写真も撮りました。
帰宅してしばらく経って、
温め続けたブーゲンビリアの絵を
いよいよ描こうと思い、
制作に入りました。
ところが、色を重ねていっても、
絵から伝わる何かが
足りないような気がしました。
沢山の写真を参考にして、
色の調和を丁寧に調整しているはずなのに
なぜだろう?
そこで、ふと、
沖縄で描いた水彩スケッチがあったことを
思い出したのです。
上の写真は
ブーゲンビリアの色を描き留めるために
現地で絵の具を使って
スケッチしているところです。
このスケッチを自宅で見て、
ようやく記憶が蘇ってきました。
自宅で写真を見ながらでは
どうしても再現できなかった
色の鮮やかさを知りました。
白い画用紙からの照り返しが眩しい
沖縄の光の中で
食い入るように観ながら描いたスケッチが
振り切れるような鮮やかな色で
透き通るように咲き誇る
美しいブーゲンビリアの姿を
思い出させてくれました。
光の補正のための現地スケッチ

『 Bougainvillea 』<透明水彩画> by Nori
自宅の電気の下では
どうしても現地の色が出せません。
現地でわたしが描いたスケッチには、
沖縄の強く眩しい光ごと
描き留められているかのように
どこまでも明るい色で塗られていました。
同じものでも、
昼間と夜では見える印象も
色の鮮やかさや影の濃さも
変わって見えます。
現地で描いた水彩スケッチの色をもとに
描き進めていくことで、
現地で見た色へと補正することが
できました。
現地スケッチの威力を
目の当たりにした出来事でした。
感動した色があったら
その色だけでも
スケッチブックに描きとめておく。
そんなことを学んだエピソードでした。
写真は景色を切り取りますが、
スケッチは私の心にその「光」を刻みつけます。
つつじに見えてしまった失敗は、
私の観察がまだ足りなかったという教えですね。
生命の本質を掴むまで、
何度でも会いに行く。
それもモチーフへの敬意につながる
制作の大切な一つの工程かもしれません。
色は技術で選ぶのではなく、
記憶から導き出すものだと感じました。
葉っぱの水彩画|ひまわりのブーケを描く
『ひまわり』の制作風景。by Nori
明るい陽射しの中の風景や
明るく爽やかな雰囲気には
透明水彩の技法がぴったり
ではないでしょうか。
上の作品は
ひまわりを描いたものですが、
葉っぱも沢山描きました。
ちょうど写真にあるように
線のように細い植物の葉っぱを
水をたっぷり使って溶いた
明るい色の絵の具を使って、
塗っている絵の具が乾かないうちに
途中で色を変えながら続きを描くことで
紙の上で自然に混ざりあう効果が
生まれます。
これはパレットの上で
直接色を混ぜるわけではありませんが、
紙の上で『混色』されています。
そんな
紙の上で大胆に色が混ざり合う
【にじみ】の効果も
葉っぱの表現にはよく合います。
また、
絵の具をたっぷりの水で溶いて
薄く塗り重ねる『重色』という方法も
透明水彩ならではの
美しい表現が可能です。
葉っぱの水彩画|重色による葉っぱの塗り方
『Harmony』<透明水彩画(作品の一部)> by Nori
上の作品の中央にある
シクラメンの葉っぱは
『重色』の方法で描きました。
シクラメンの葉っぱは
複雑な模様がついていて
とても特徴的です。
透明水彩は一度塗ったら
修正が難しいので、
あらかじめ
シクラメンの葉っぱの塗り方を
マスターしておかないといけない
と思いました。
試し塗りを重ね、
この作品のイメージに合う
シクラメンの葉っぱの塗り方を
見つけてから制作に入りました。
本番の紙は、
やり直しが効かない聖域です。
だからこそ、
事前に納得いくまでシミュレーションを行う
必要があります。
この『試行』の時間こそが、
透明水彩の透明度を濁らせないための
唯一の秘訣と言えるでしょう。
次の章では
そんな
シクラメンの塗り方を
ご紹介してみようと思います。
5ステップでシクラメンの葉っぱを描く

シクラメンの葉っぱの描き方の練習の様子。by Nori
上の写真は
水彩紙に試し塗りを重ねた
シクラメンの色塗りの練習の様子です。
これらを基にして
作品のイメージに合う
シクラメンの葉っぱの塗り方を
ようやく見つけました
最終的に見つけた
シクラメンの塗り方は
簡単なメモで記録してありましたので、
それに沿って
ご紹介してみようと思います。
『重色』のコツは
完全に乾いてから次の色を重ねることです。
■ ステップ1: 赤味の色で輪郭を塗る

シクラメンの葉っぱの描き方の記録メモ。by Nori
まず最初に
葉っぱの外側の輪郭と
中央の筋を
赤味のある色で
薄く塗る。
色は
・Alizarin Crimson(赤味)
単色です。
※ ホルベイン絵の具では
Permanent Alizarin Crimson
■ ステップ2: 乾かないうちに明るい緑を塗ってぼかす

シクラメンの葉っぱの描き方の記録メモ。by Nori
ひと塗り目の絵の具が
乾かないうちに
空いたスペースに
明るい緑色を薄く塗り
自然に混ざり合う様子を
表現する。
これは『にじみ』の技術です。
パレットで色を作るのではなく
紙の上で色が混ざり合うのを待つというのは、
自然が移ろいゆく様を
紙の上で再現する試みです。
シクラメンの葉の複雑な模様は、
偶然ではなく、生きるための必然的な美しさと言えます。
ここでの色は
・Phthalo Green(明るい緑色)
単色です。
※ ホルベイン絵の具では
Viridian
■ ステップ3: 葉柄を描く

シクラメンの葉っぱの描き方の記録メモ。by Nori
完全に乾いてから
葉柄側に葉っぱの色を重ねます。
これは『重色』の技術です。
斑の模様を意識しながら
塗っていきます。
葉っぱの色は
・Permanent Green No.3(暗めの緑色)
単色です。
※ 現在はこの色は廃番色。
■ ステップ4: 斑の模様を描く

シクラメンの葉っぱの描き方の記録メモ。by Nori
完全に乾いてから
今度は葉っぱの外側にも
葉っぱの色を重ねます。
これは『重色』の技術です。
斑の模様を作るように塗ります。
このとき、
ひと塗り目で
すでに赤い絵の具で輪郭を取った
葉っぱの一番外側の際(キワ)の部分は
少しだけ赤味を塗り残すと
葉っぱの厚みを表現することができます。
葉っぱの色は同じく
・Permanent Green No.3(暗めの緑色)
単色です。
※ 現在はこの色は廃番色。
■ ステップ5: 仕上げ

本番の仕上がりの様子(作品一部拡大)by Nori
完全に乾いてから
色味が足りないなと感じたら
赤味と黄色味とで
葉っぱのニュアンスを整えるように
色を重ねます。
これは『重色』の技術です。
色は
・Alizarin Crimson(赤味)
・Olive Green(黄色味)
の2色を使いました。
葉っぱの水彩画|まとめ
『fabrics of nature』<透明水彩画 (作品の一部)> by Nori
- 観察の純度:形を捉えることは、その命のあり方を理解することにつながります。
- 記憶の補正:感情を呼び起こすのは、写真ではなく、自分の手で残したスケッチの色でした。
- 実験の蓄積: 「にじみ」や「重色」を使いこなし、一枚の葉の向こう側に、広大な物語を見つけることができたらいいですね。
葉っぱの美しさは、本当に神秘的ですね。植物との対話を通じて学んだ「自然の働きを写し取る試み」を、今度は「人間」という、もう一つの深遠なモチーフに向けてみました。
▶︎ 「【プロセス】呼吸を写す|人物画という名の、最も贅沢な対話」では、一木一草の哲学を携えて挑む、人物画の制作プロセスについてお話ししています。
NORi