《絵画のお話》天使とは?Angel の語源からわかる天使の役目

【天使とは】- Angel の語源とその役割。

『天使』鉛筆画 by NORi

 
天使というと、

どのようなイメージが浮かびますか?
 

翼(羽)が生えていて
丸々とした可愛い子供

として描かれることが多いですね。
 

そもそも

天使とは
どのような存在なのでしょうか。

 
 

■ ” angel ” の語源。

 
語源を調べてみました。
 

『 天使 』は英語で
angel
ですが、
 

これはサンスクリット語
(古代インドの文章語)の
angiras
と、

ギリシャ語の
angeloi
に由来しているそうです。
 

意味はそれぞれ、
the spirit of fire as enlightenment
『 悟りをもたらす火の精霊 』

および
messenger
『 使者 』

です。
 

この語源から、

天使というのは、
” 翼(羽)が生えている ”

という外見よりはむしろ、
 

天(神様)の使い

あるいは
救いの使者

という『役割』によって
定義されているということが分かります

 

天は必ず天使にお願いするのです。
 

選ばれた人間に
大事なことを伝えるために。

 

全知全能の偉大なる天の力は
直接人間に届くには
強力過ぎるようです。
 

天使は、

歴史的な絵画にも
たびたび登場します。

 

芸術の中に現れる
天使たちの『役割』に注目しながら

絵画を眺めてみると
深い意味に気づきそうです。
 

天使は messenger 。
 

それだけで
なんだか愛おしいですね。
 

【天使とは】- 想像せずにはいられない。


messenger
(神様の使い)

という『役割』持つ天使として
 

最もよく知られている例は、

Archangel Gabriel
(大天使ガブリエル)

ではないでしょうか。
 

大天使ガブリエルは、

救世主であるイエス・キリストの
受胎の知らせを
 

神様の使者として

聖母マリアに
告げにやってくる天使です。

 

そんな
天使のイメージに、

必ずついてくるのがです。
 

■ 翼(羽)の意味。

 
天使は、

神様の使いとして

神様と人間の間を、
 

あるいは
あの世とこの世を、
 

さらに言えば

目に見える世界と
目に見えない世界を
 

橋渡しする役目を担っています。
 

そのため、
両方の世界を

『 飛び 』越えなくてはならず、
 

そのために翼(羽)が必要でした。
 

・・・といいましても、

天使は
人間(画家)の想像が
生みだしたものです。

 

実際には存在しない天使。
 

なぜ時代を超えて

天使の存在が
脈々と受け継がれてきたのでしょう。
 

それは、

古代から人間は
想像せずにはいられなかったのです。
 

神様の世界、

あるいは天国とは
どのような場所だろう?

 

素晴らしい神様の世界。
 

そこにいるのはどんな存在だろう?
 

とても魅力的に
思えたに違いありません。

 

そこに登場したのが、

天の慈悲をまとい
人間の元へ飛んでくる

『 天使 』の姿だったのです。
 

【天使とは】- 天使 vs 科学。


天使は宗教的なモチーフでした。
 

一方で、

科学の発展に伴い
生活環境としての街は産業や工業が盛んになり、
 

資本主義と都市化の影響が
強まっていくことになります。
 

19世紀になると

イギリスの博物学者
ダーウィンが進化論を

(Charles Robert Darwin, 1809-1882)
 

それから、

オーストリアの医師
フロイトが精神分析を

(Sigmund Freud, 1856-1939)
 

それぞれ科学的に実証していくという
新しい理論が提唱されました。
 

それまでの宗教の地位は弱体化し、

信仰心の厚い多くの人達は

これまで与えられてきた教えに対して疑問を感じるようになりました。
 

■ 人の心は簡単には変わらない。

宗教の影響力が
危機的状況に陥る中で、

キリスト教における
messenger としての『天使』や、
 

あるいは『悪魔』の存在は、

詩人や画家だけのモチーフとなり、
 

一般の人々の意識からは
遠ざかるようになりました。

 

しかし、
それでもなお

人間の知識を超えた世界への探求が
終わることはありませんでした。
 

なぜならば、

多くの人々にとって
 

神様との精神的なつながりを断って
生きていく

 

という考え方を受け入れるには
まだ心の準備が整っていなかったのです。
 

【天使とは】- 天使の復活。


このようにして
科学の発展に伴い、

『天使』にまつわる宗教的思想は
人々の心から消えていきました。
 

しだいに
『天使』は宗教的な制限を超えて、

日常的な文化や
公共的な生活空間の中で
話題に持ち上がるような

 

そんな存在として
生き残っていくようになります。
 
 

■ 生活に寄り添う天使。

 
特に、

カント哲学の影響から
(Immanuel Kant, 1724-1804)
 

文明化の時代で失われつつあった、

より良い人生を送りたい
 

という
多くの人々の憧れや切望を満たす
象徴として
 

『 天使 』の存在が
クローズアップされました。
 

もはや
宗教的な結びつきを持たず

憧れの人生を歩むために、
 

生活に寄り添うようにして
『 天使 』は存在するように
なりました。

 

このときの天使の『役割』とは
何でしょう?

 

それは、

guardian angel
守護天使です。

 

例えば、

眠りにつくとき、
 

今日という一日に感謝し、
明日への祈りをささげる時、
 

そこには

見守るように
天使がいるのです。

 

【天使とは】- どこにいるのか。


宗教的な結びつきから解放されて
憧れの人生を歩むために、

 
生活に寄り添うようにして
『 天使 』の役割は復活します。
 

歴史的な絵画に出てくる
それまでの天使は、

古代ギリシャ・ローマ時代の
女神像に似ていて、
 

勝利や平和を象徴していました。
 

一方で、

19世紀において

天使が頻繁に
描かれるようになった場所は、
 

なんと、墓石や墓碑でした。
 

■ 死に寄り添う天使。

 
この時代、

墓石や墓碑に天使を描くことが
習慣化していきました。
 

昔から慣れ親しんできたイメージが
そこにはありました。
 

それは、

死者の魂を
あの世まで導くために
 

死者と同行する役目を担っているのが
天使である、

というものでした。
 

このような古典的な物語とともに

天使は
人の死に向き合う
 

哀悼や哀愁を表す
シンボルとなりました。

 

■ マネも天使を描いた。

 
19世紀のフランスの画家
エドゥアール・マネ

(Édouard Manet, 1832-1883)

も天使を描きました。
 

それは、
ある一問一答の

『答え』として示したものでした。
 

一問を世に問うたのは、

同じ時代をフランスで生きていた
写実主義の画家

ギュスターヴ・クールベ
(Gustave Courbet, 1819–1877)。
 

パリにあるSaint Sulpice教会で、

飾られている天使の絵画の前で
クールベはこう言いました。

 

『私の目の前に天使を見せてください。

そうすれば、
わたしも天使を描くでしょう。』
 

写実主義の画家の
現実的な問いでした。

 

それに対して、

人間の自由な想像力を重んじていたマネは、

その答えを絵画として示しました。
 

そのときマネが描いた絵は、

亡くなったキリストの遺体に寄り添い
天国へと誘おうとしている

 

天使の姿でした。
 

【天使とは】- 自分だけの天使へ。


目に見えない天使は描けない
と言った

写実主義の画家クールベの問いに、
 

エドゥアール・マネは
天使の絵で応えました。
 

それまで、

18世紀のヨーロッパでは

物質主義、合理主義の思考に
支配されていました。
 

精神的なものや
宗教的な思想は

徐々に日常から
追いやられていきました。
 

しかし、

人々はそのような世界に

徐々に疲れを
感じるようになっていきました。
 

このような現実から
人々を救うために生まれたのが

人間の持つ主観的な感受性や
自由な発想を重んじよう

という動きです。
 

芸術の分野においても、

理性から感性へと
価値の変化が起こっていきました。
 

ギリシャやローマの美術を模範とする
古典主義では、

正確なデッサンと
安定した構図にもとづく

理性的な絵画様式に
信頼を置いていました。
 

このような伝統や形式を重んじる
権威主義的な古典主義体制に代わり、

より自由で
個性的な主観や感性を重んじる

新しい潮流が生まれました。
 

■ ロマン主義 (Romanticism) の誕生

これは
ロマン主義 (Romanticism)
と呼ばれています。
 

フランス語の
“ロマン”

という言葉に由来していて、
 

情緒的な芸術作品を形容しています。
 

このようにして、

個人の自由を目指したロマン主義は、

19世紀前半を中心に
文学、美術、音楽などの分野へと

広く伝わっていきました。
 

■ 象徴主義 (symbolism) の誕生

19世紀の後半には

新たな潮流として
象徴主義 (symbolism) が起こります。
 

象徴主義では、

実際に目の前にあるもの
を描くことよりも、
 

人間の内面を表す
「シンボル」的なものをテーマに選び、

絵画として再構築することを目指しました。
 

主観や感性を優先する時代の流れの中で、

マネは
(Édouard Manet, 1832-1883)

一人の自由な人間であるという立場から、
 

「個人的な現実」として、

「個人として追い求めた人間の本質」として、

キリストと天使を描きました。
 

マネの絵画技法は、

印象派と呼ばれる新しい流れをも
生み出していきました。
 

【天使とは】- 新しい天使がやってきた。


人間の内面に目を向けた
絵画表現の時代。
 

このような時代の中でも、

天使のイメージは
古典主義の影響を受けていました。
 

古代ギリシャ神話や
キリスト教から派生するイメージです。

 

messenger
(神様の使い)
としての

Archangel Gabriel
(大天使ガブリエル)
であったり、
 

guardian angel
(守護天使)
としての天使の姿です。
 

19世紀の絵画の中で

繰り返し描かれる
天使の一つのイメージは
 

光に包まれる天使の姿です。
 

その光は神聖な光で、
『神の光』です。
 

天使は
自然の力と密接に関連する存在

として描かれています。
 

イエス・キリストも
『光をもたらす人』
として記述されています。
 
 

■ 新しい天使像。

 
そんな中、

完全に新しい
天使像を作り上げた人がいました。
 

イギリスの画家であり詩人である、
ウィリアム・ブレイクです。

(William Blake, 1757-1827)
 

彼は、
ギリシャやローマ(古典主義)の芸術や
ミケランジェロの作品から影響を受け、
 

崇高なビジョンを呼び起こす
力強い天使の姿を描きました。

 

天使の新しいイメージを生み出した
発想力あふれる素晴らしい芸術家として

最も重要な先駆者の一人です。
 

【天使とは】- 象徴主義のマニフェスト。


19世紀後半に生まれた
象徴主義 (symbolism) では、

実際に目の前にあるものを描く
ということよりも、
 

人間の内面を表す
「シンボル」的なものを

テーマに選び、
 

絵画として再構築することを
目指しました。
 

そんな象徴主義の
マニフェストを提唱した人物がいます。
 

フランスで活動をしていた詩人
ジャン・モレアスです。

(Jean Moréas、1856-1910)
 

彼は、
1886年に Le Figaro という
フランスの日刊紙の中で

Symbolist Manifesto

という宣言文を発表しています。
 

そこには
象徴主義の目的が書かれています。
 

象徴主義は

決して空想や想像の世界を
表現することではなく、
 

単に目に見えるとか見えないとか、
そういうことを超えて、

表現されるべきもののために、
ただ、
それ自身を表現すること。
 

これこそが

象徴主義の
唯一の目的だと述べています。
 

実在に応えるために、

想像力が働く余地を
残しています。

 

■ アンチテーゼとしての象徴主義。

この象徴主義は、

目に見える自然を忠実に写し取る
自然主義や写実主義に対する

反動でもありました。
 

時には夢となって
私達に何かを教えてくれる

無意識の世界で感じる感覚や観念、
 

神秘的なものや不合理なもの
といった

目に見えない精神的な世界。
 

それを表現することが

象徴主義の目指すもの
となっていきました。
 

その結果、

目に見えない
あの世からの使者である天使は、

象徴主義における絵画の
理想的なテーマとなりました。

 

つまり、

目に見える事柄や、

科学的に証明できる現実だけを
重要視する世界への
 

理想的なアンチテーゼとして、

天使は格好の題材となったのです。
 

キリスト教絵画の復興

という目的で天使を描いた画家も
いましたが、
 

それは同時に、
キリスト教の支配下にあって描く
天使ではなく、

教会に縛られることなく、
自分の世界観の中で、

 

主観的な感情
として選ばれたモチーフとしての
天使でもありました。
 

象徴主義はもともとは、

フランス文学の流行として
始まりましたが、
 

すぐに
音楽や絵画など
芸術の全分野にも現れ、

象徴主義の芸術家たちが
活躍する場所は
 

19世紀末には
ヨーロッパ全域に広がりました。
 

【天使とは】- 自然回帰。


19世紀後半のヨーロッパに
一気に広がった象徴主義は

西洋美術において大きな影響を
及ぼしました。
 

その先駆けともいわれる
あるグループがありました。
 

それは、
ラファエル前派 〈ラファエロ以前兄弟団〉
(Pre-Raphaelite Brotherhood, 1848-)

と呼ばれる
イギリスのロンドンで結束された集団です。
 

「ラファエロ」とは、

レオナルド・ダ・ヴィンチ、
(Leonardo da Vinci, 1452-1519)

ミケランジェロ
(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni, 1475-1564)
とともに、
 

イタリア・ルネサンスの三大巨匠の一人である

ラファエロ・サンティ
(Raffaello Santi, 1483-1520)
を指しています。
 

ラファエロの芸術は高く評価され、
その後の西洋美術の模範となっていきました。
 

その動きは
19世紀におけるアカデミズムに至っては
形式化された美を求める風潮へと変わっていき、

そこに反発を示したのがラファエル前派でした。
 

彼らの芸術が探求したのは、
ラファエロ以前の

中世における美術に立ち返り、
 

原始的で、純粋な
ありのままの自然の姿を

正確に描き出すことでした。
 

■ 原始の自然を愛する天使。

同時に、

産業化・工業化が進み
利益追求の進む時代の中で
 

別の選択肢を人々に示すこと

ラファエル前派の芸術が
望んでいたことでした。
 

『物質重視の科学が進めば進むほど、
私は天使を描くことになる。

 

その翼は、

精神的な不道徳さや
非倫理的な行為への

私の抗議である。』
 

これは、
ラファエル前派で重要な役目を担った

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ
(Edward Coley Burne-Jones, 1833-1898)

の言葉です。
 

彼は沢山の美しい天使の姿を
描き残しました。
 

【天使とは】- 翼の消えた天使。


19世紀の中ごろにイギリスで生まれた
ラファエル前派。
 

その結束の立役者の一人となったのが

イギリスの画家であり、詩人である
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

(Dante Gabriel Rossetti, 1828-1882)
でした。
 

ロセッティの絵画や詩には、
中世イタリア文化への憧れが表れています。

 

中世における美術には、
キリスト教の信仰が根底に流れています。
 

ロセッティは、
ラファエル前派の一員として、

聖母マリアの油彩画を発表していきます。
 

ところが、その第二作目で、
強烈な批判にさられます。
 

それが、
” Ecce Ancilla Domini!” (1849-1850)
という作品です。
 

《見よ、われは主のはした女なり!》
という意味のようです。
 

聖母マリアが懐妊6ヶ月目の出来事を記した
「ルカによる福音書の第1章38」

が題材となっています。
 

■ ルカによる福音書の第1章38

礼拝の中心地エルサレムからは遠く離れた、
まったく重要視されていないナザレ

という村に住む貧しい女性、
それがマリアでした。
 

人類救済という重要な使命を果たすために
神様に選ばれるような条件を
兼ね備えた人物とは

とても考えられない状況でした。
 

しかし、

神はマリアを選び
天使ガブリエルをマリアのもとへ送ります。


 

突然現れた天使ガブリエルから
受胎告知を受け、

まだ夫もいないマリアは
なんのことが分からず困惑し、
恐れを抱きます。
 

そんなマリアに
天使ガブリエルは言います。
 

神からの恵みを受け取って
産まれてくる男の子に
イエスと名付けなさい、と。

 

そして、
イエスが偉大な人物になると
伝えます。
 

マリアは
全知全能の神の存在を悟り、

「わたしは主のはしため(神に従う者)です。
何もかも主のお言葉どおり致します。
 

どうぞ、主のお言葉どおりに
この身が成りますように」

無条件に神を信じます。
 

その言葉によって、
天使ガブリエルは彼女から離れ

見えなくなった、
 

というのが、
「ルカによる福音書の第1章38」
の場面
です。
 

■ ロセッティへの批判。

 
その場面を描いたのが、
ロセッティの作品でした。
 

なぜ強烈な批判にさられたのか
というと、

それは上品さ、神聖さを
欠いているとみなされたからです。

 

ロセッティの描いたマリアは、
部屋の片隅にあるベッドの上で

身をかがめるように
しゃがみこんでいます。
 

突然の天使の出現によって、
完全に怯えた表情です。
 

一方で、
わずかに宙に浮いたように描かれた
天使ガブリエルは、

一輪のユリを持っていて、
その茎の方をマリアに向け、
 

ほとんど攻撃的ともみえるような
緊張状態を醸し出してます。

 

※ 天使ガブリエルがユリを持っているのは、
伝統的な美術形式で、
ユリを持っていることで、
それが天使ガブリエルである
ということを示しています。

 

■ 翼の消えたロセッティの天使。

 
この時の天使ガブリエルには
翼が描かれていません。
 

このことが、

ロセッティの中世思想や
キリスト教への情熱を反映しています。

 

西暦400年ごろまでの
初期のキリスト教の絵画には、

天使には翼が描かれていなかったのです。
 

その代わり、
古代ギリシャ・ローマ人が身につけていた
袖のない、白い長い服を身にまとう

人間の姿で天使は登場していました。
 

ロセッティの天使もまた
袖のない、白い服を着ているのです。
 

【天使とは】- ロセッティは諦めない。


翼のない天使を描いた

ラファエル前派の創設者一人
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ。
 

ロセッティの絵画や詩には、

キリスト教の信仰が根底に流れる
中世イタリア文化への憧れが表れています。
 

ただ、
中世美術を一言で

「神に捧げるためのもの」
というように

単純に言えるようなものでもないようです。
 

そもそも、中世とは
どんな時代だったのでしょうか。

 

■ 中世とは?

中世の《前》は、古代です。
 

「ミロのヴィーナス」の彫刻のような
ギリシャ神話などがテーマになった時代です。
 

一方で、中世の《後》はイタリアルネサンスです。
 

レオナルド・ダ・ヴィンチ
(Leonardo da Vinci, 1452-1519)
の「モナ・リザ」や、

ミケランジェロ
(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni, 1475-1564)
の「最後の審判」などが有名です。
 

中世を挟むどちらの時代も
写実的な美術表現が主流の時代でした。
 

この2つの時代の間に位置するのが
《中世》です。

 

写実的であった美術表現だけでなく、

抽象化されたものへの美も
取り入れるようになっていきました。

 

また、
多神教であったローマ帝国から
一神教であるキリスト教が中心になり、
 

芸術のテーマもギリシャ神話から
聖書へと変わります。
 

中世美術好まれたのは
聖母マリアやキリストの姿です。
 

その周りには、
聖人や天使たちが祝福するように
描かれています。

 

しかし、
キリスト教の影響は
中世だけでなく、

その後のルネサンスの時代においても、
 

さらには、現在にいたるまで、

ヨーロッパ文化や思想を支える
基本的な柱となっています。
 

前回、
ロセッティの油絵が強烈な批判を受けた

という話を書きましたが、
 

その後、ロセッティは中世への憧れを
挿し絵という分野で切り開いていきます。
 

■ ロセッティの新境地。

ルネサンスの三大発明として、

  • 活版印刷
  • 羅針盤
  • 火薬

があげられます。
 

中世にはまだ印刷技術がありませんでした。
 

本は一冊一冊手作りで、

装飾や挿絵の入った本は、
字を書く人と挿絵画家が
半年以上をかけて仕上げたと言われています。

 

本という内容そのものの価値に加え、
美術品としての面を持ち合わせていました。
 

そこで生まれたのが、
写本です。
 

すでに中世の芸術家には
十分な写本技術が確立しており、

古代ギリシャ・ローマ時代に急激に発達した
学問や芸術が、

中世の写本のお蔭で
現代にまで伝わっているのだそうです。
 

豪華な装丁を施した写本は
まさに中世らしい美術品であったわけです。

 

画家であり、詩人であるロセッティは
中世の彩色写本や文学作品における絵画を学び、

装飾的な手法を取り入れ
絵画と詩というふたつの表現を統合した

挿し絵という世界で
独自の中世世界を表現してゆくことになります。
 

【天使とは】- 西風の神。


ラファエル前派の創設者一人である

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
と同じく
 

ラファエル前派で活躍した人物の中で、

ルネッサンスに憧れた画家がいました。
 

それは、
エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ。
 

ギリシャ神話がテーマであった
古代から移り変わり、

キリスト教が中心に置き換わった中世。
 

その影響を受けながらも
中世の《後》に続く新しい時代が

イタリアルネサンスです。
 

バーン=ジョーンズの
芸術の発想の源になったのが、

そんなルネッサンス期の芸術でした。
 

バーン=ジョーンズが
特に影響を受けたのが、

イタリアルネッサンス期の画家
サンドロ・ボッティチェッリです。

(Sandro Botticelli, 1445-1510)
 

メディチ家の保護を受け、
宗教画、神話画などの傑作を
残したことで有名です。

 

「ビーナスの誕生」
(Nascita di Venere, ~1485)

は聖書ではなく、
ギリシャ神話をテーマに描かれています。
 

厳しいキリスト教会の支配から離れ、
古典文化の再生を目指し

自由を謳歌するルネサンスの思想が
色濃く表れているとも言われています。

 

■ 「ビーナスの誕生」

 
ボッティチェッリの描いた
「ビーナスの誕生」では、

海から誕生した美の女神ヴィーナスが
絵の中心に描かれています。
 

その左側には、
西風の神ゼフロスと

その妻である
花の女神フローラが

ビーナスの誕生を祝います。
 

右側では、
時の女神ホーラが

産まれたばかりのビーナスに
絹の布をふわりとかける、

そんな仕草をしています。
 

そして

西風の神ゼフロスには
翼が描かれています。

 

【天使とは】- 天地創造の物語。


そんなイタリアルネッサンスの
自由な芸術に

インスピレーションを駆り立てられた
ラファエル前派の画家

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ。

彼は創造力あふれる素晴らしい作品を発表し、
大人気となります。

 

バーン=ジョーンズの代表的な作品に、
6 連作の構成となる

“The Days of Creation” (1872-1876)
という大作があります。

 

6 枚の絵画のそれぞれが
34.3 × 101.9cm というサイズです。
 

Creation とは、
旧約聖書の『創世記』で記される

神が 7 日間でつくりあげた
天地創造の物語です。
 

そこでは神は、
1 日目に天と地、光と闇をつくった、
と書かれています。
 

2 日目には、空(天)を、
3 日目には、大地と海と植物が。
 

4 日目には、太陽と月と星を、
5 日目には、動物と鳥を。
 

6 日目には、獣と家畜をつくり、
神に似せた人をつくり、

7 日目には神はお休みになられた、
となります。
 

この天地創造の物語を
バーン=ジョーンズは

天使とガラス玉で表現しました。
 

6 連作の一枚ごとに
(天地創造の日にちが増えるごとに)
描かれる天使が増え、

ガラス玉には神が創造したものが
映し出されるように描かれています。
 

1 枚目に描かれる天使はひとり。
その天使が両手で支えるガラス玉には、

天と地と、光と闇が
描かれているように見えます。
 

3 枚目になると三人の天使が描かれ、
ガラス玉には果樹のなる木が見えます。
 

5 枚目には五人の天使が。
ガラス玉には空と水中の様子が
映し出されています。
 

6 枚目には天使が七人に増えます。
ガラス玉にはアダムとイブが映し出され、

楽器を奏でる天使がひとりいます。
 

これは、7日目の「神はお休みになられた」
という状態を
6 枚目に含めたと解釈されているようです。

 

■ 叡智の印。

また、
バーン=ジョーンズの描いた天使は、
頭の上で光を放っています。

 

これは、叡智を表す
特徴的な絵画表現の一つです。

 

このような、
頭上の光やガラス玉は、

天使のイメージと結びつくように
描かれるようになります。
 

これは、象徴主義や
それ以降に描かれる天使の中で

ときどき共通して表れる
印のようなものとなっています。
 

【天使とは】- まとめ

  • 天使の語源 Angel は叡智の象徴、そしてメッセンジャー(使者)
  • その時代に生きた人々の心に寄り添うようにして天使という存在は時代を乗り越えてきた。
  • 画家の自由な発想と、人々の心を救いたいという情熱によって天使は何度も生まれ変わる。

 

NORi
19 世紀を中心に天使のおはなしを
眺めてみましたが、

時代背景や
画家の真摯な想いが伝わってくるようで

人の想像力の果てしなさを感じます。