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ザクロの水彩画|果物の描き方と補色 〜色彩科学のお話〜

    
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ザクロの水彩画|果物の描き方と補色 〜色彩科学のお話〜

こんにちは、NORi です。
透明水彩で絵を描く時、私達は「暗い影には青色」、「明るい所には薄い黄色」という風に、普段何気なく色を選ぶことが多いのではないでしょうか。

そしてそれは、とても理に適っているようです。今回は、そんな色の使い方を紐解いてくれる色彩理論について考えてみたいと思います。

NORi

(動画再生時間:1分47秒)
※音楽が鳴りますので、音量の調整をしてご覧ください。

『柘榴(ざくろ)』透明水彩画 by Nori



【ザクロの水彩画】明度とは?

zakuro

『柘榴(ざくろ)』透明水彩画 by Nori



明度(めいど)とは
色の持っている『明るさの度合い』
のことです。



ちょうどモノクロ写真を見ると
色の明るさの度合い(明度)が
分かりやすいです。




モノクロ写真に写し出される
白から黒までの
灰色のグラデーションは
ちょうど明度の違いを示しています。



最も明るい色(最高明度)は
【白】になります。




透明水彩の技法を活かすならば
紙の白さが最も明るい色

ということになります。


つまり、
【 塗らない = 最も明るい 】

これが透明水彩の基本的な考え方
と言えるかと思います。




絵の具をたっぷりの水で溶いて
色を薄くすることで
紙の白さが透けて見えます。


このように
紙の白さが透けるほどに
薄く薄く色を塗り重ねることで

透明感あふれる明るい絵になります。




そして最も暗い色は【黒】で、
完全な黒というのは明度ゼロです。


実際に
絵の具の色を混ぜれば混ぜるほど
黒(暗いグレー)へと近づいていきます。




色の明度とは?




白黒の写真であれば
明るさの度合い(明度)も
はっきり分かりますが、

私達は色彩あふれる
透明水彩を描いていますから

白黒ではなく
赤・青・黄などの『色の明度』
を知りたいですよね。





下のの【図1】は
色の要素を説明したものです。


図の中の右側に
様々な色が環状に
並べられているのが見えますが、

これは『色相環』と呼ばれています。

【図1】





色相というのは、
白・黒・灰色以外の色を指します。


【図1】の色相環の色は
どの色もにごりのない
綺麗で鮮やかな色ですが、

これを白黒にすると
色によって明るさ(明度) が違う
ということが分かります。




上の図を白黒にしたものが
下の【図2】です。

【図2】



図1の色相環と見比べながら
図2の色相環(白黒)を見ると、

色相環(【図1】)の
上の方にある色
(オレンジ色・黄色・明るい緑色)
あたりは

比較的明度の高い明るい色
だということが分かります(【図2】)。




このような明るい色から
薄く塗り始めると

急激に絵が暗くなり過ぎるのを
防ぐことができます。



一方で
色相環(【図1】)の下の方の色
(青色・紫色)は

そもそも明度が低い
ということが分かります(【図2】)。




このような色を効果的に使えば
薄く塗るだけで

重厚な深みのある陰影を
表現することができそうですね。






〈実例〉ザクロの水彩画と明度のはなし。

【図3】『ざくろ』制作中の風景。by NORi



上の画像【図3】は
わたしの制作風景です。


柘榴(ザクロ)を描き始めたところ
なのですが、

全体に少し色の強弱をつけながら
塗り重ねるところまで来ました。




この状態の
【明度】を見てみたいと思います。



白黒にしたのが下の【図4】です。


【図4】図3を白黒にしたもの by NORi



白黒にすると
ここまでの段階の
色の【明度】がわかります。




なんと!
黄・ピンクを薄く塗り重ねた
柘榴の内側は

白黒にしても
あまり暗くなっていません。


黄色やピンク色は
もともと明度の高い色だからです。





そしてティーカップの
紙の白さを塗り残しているところは

やはり圧倒的な明るさだと
分かります。


最高明度の白がとても効いていますね。


ここから徐々に明暗を強めて
迫力のある絵にしていけたらなと
思います。




【ザクロの水彩画】彩度とは?



絵を描く際には
主役のモチーフの色
というのは
大事にしたいところです。



花の色、山の色、湖の色、
林の緑などなど・・・

様々なモチーフを描く中で
主役のモチーフを
もう一段引き立てるために、

鮮やかな色を思い切って塗る
という方法があります。




修正の難しい透明水彩で
しかも繊細な色合いで
薄く塗り重ねてきた大切な作品に

思い切って鮮やかな色を塗る
というのはのは


まるで
“清水の舞台から飛び降りるような“
ドキドキ感”がありますが
挑戦する価値はあります。




前章の『明度』のところで
ご紹介しましたが、
一番明るい色は白です。

そして一番暗い色は黒


その中間に
灰色のグラデーション
があります。




この白、黒、灰色には
色味がないため
この3色は無彩色と呼ばれています。


そして、
白、黒、灰色以外のあらゆる色を
有彩色と呼びます。




彩度(さいど)とは
この色味を持つ有彩色の
『色の鮮やかさ(色の純度)』のこと
です。


実は
私達の身の周りには
最も純度が高い
鮮やかな色というのがあります。


それは、虹の色です。




虹に現れる色というのは
太陽光が含むあらゆる色相(色)が
非常に高い純度で現れる現象です。


虹の色の中にある色を純色と呼びます。


このような光の色を
絵の具で再現することはできませんが

絵の具のメーカーさんの努力によって
かなり鮮やかな色の絵の具を
私達は使う事ができます。




鮮やかな色の見本 = 色相環



虹の色を研究した科学者がいます。

ニュートンです。


ニュートンは
虹の色から代表的な色相(色)を選び
丸く環状に並べました。


これが
最初の色相環と言われているようです。





つまり
虹の色が示す
【 最も鮮やかな色 (最高彩度の色)】
というのは、

色相環に示されている色を
参考にすることができる
というわけです。


【図1】を改めて
ご紹介しておきます。


【図1】



【図1】には
色味(彩度)の無い
白・黒・灰色の
【無彩色】の世界から(図の左側)

白・黒・灰色の要素が
全く含まれない
【色味 100% の最高彩度】の世界
(図の右側の色相環)
が示されています。




この間に
色味(彩度)の低い状態から
色味(彩度)の高い状態まで
様々な色があるわけです。


絵の具を使う場合には
色の明度をコントロールする
ということもできます。



普段私達は
水で絵の具を薄めて塗る
ということをしますが、

水が多いということは
紙の白さが際立つ
明度の高い状態を作っている
ということになります。





そこから徐々に
絵の具の濃度が高まるように
塗り重ねていくことで

より色味の強い(彩度の高い)
より鮮やかな表現へと
絵を展開していくこともできます。




〈実例〉ザクロの水彩画と彩度のはなし。

【図5】『ざくろ』制作中の風景。by NORi



前回の「柘榴(ざくろ)」の作品
(【図3】)が少し進みました。



薄塗りでスタートさせてきた
色味もだいぶ深まってきました。




主役の「柘榴」に
思い切って鮮やかな色を塗りました。


彩度が高まった代わりに
明度は低くなりますが、

明暗のコントラストが高まると
今度は
立体感が出てきます。





【図6】図5を白黒にしたもの by NORi



紙の白さを活かした
明度の高い状態から

薄く塗り重ねて 徐々に色味を強める
(=彩度を高める)

というのが
失敗しにくい塗り方
かなと思います。




一番明るく表現したい所は
最後まで塗らないように
取っておいた方がよいので

『塗っちゃダメ』シールでも
張っておかないといけないかも?
といつも思ってしまいます。。。




【ザクロの水彩画】補色とは?



次は『補色』について
お話してみたいと思います。


早速ですが
桜色の補色というと
何色だと思われますか?


桜色はこちらです。

桜色の補色はこちらです。




補色の関係にある色は
【互いに引き立てあう】性質
をもっています。


【 補い合う色 = 補色 】
というわけです。




試しに
上の桜色を手で隠して

下の補色だけを
じーっと見てみてください。


色がしっかり目に馴染んだら
今度は下の補色を手で隠して

桜色だけを見てみてください。




そうしましたら手を離し
両方の色を
一緒に眺めてみてください。



それぞれの色を
単色で見ていたときよりも

2色同時に見る方が
2つの色はより鮮やかに
響きあっているのが分かるでしょうか?


ここからは、
そんな補色の秘密に
迫ってみたいと思います。




補色とは
『色相環において正反対に位置する
向かい合った色の組み合わせ』のことです。



再び【図1】の色相環を
みてみましょう。


【図1】



図の右側の
色相環を参考にすると

色相環の上下に位置する
【黄色と青紫色】

あるいは
色相環の左右に位置する
【赤色と青緑色】

など、
色相環において正反対に位置する
向かい合った色の組み合わせが
補色関係の色の組み合わせです。




補色同士の色というのは
色相の変化が最も大きいため

刺激の強い色の組み合わせ
となります。


衣類の色を選ぶ際に
補色同士の色を組み合わせると

かなり派手な印象になりますね。
(嫌いではありません、笑)




一方で
先ほどの桜色と
その補色の組み合わせのように

刺激の強くない色にすると
(明度を高くして彩度を落とすことで)
補色同士でも穏やかな印象になります。







補色対比で色をもっと鮮やかに!



この補色というのは
誰かが決めたものではなく
自然現象です。


人間の視覚
(目で見る感覚の働き)
が引き起こしているものです。




ある色をしばらく見つめた後に
その色を視界から消して
白い壁を見つめると

残像として見えてくる色が
補色の正体です。



鮮やかな色では
この残像も強くなります。




そのため
鮮やかな補色を
2色並べて眺めてみると

視界の中にそれぞれの残像が重なって
目がチカチカして色がちらつく
「ハレーション」と呼ばれる現象が
起こります。





さきほどご紹介した
桜色とその補色の
【彩度】を上げてみました。




補色はこちらです。



いかがでしょうか?

最初の実験よりも
色がチカチカして
より鮮やかに見えませんか?


このように
補色の関係になる色同士を
組み合わせて

鮮やかさを際立たせる
配色のことを
【補色配色】あるいは【補色対比】
と呼びます。




絵を描く際にも
主役のモチーフを際立たせたい時に

ちょっとしたアクセントとして
このような配色は効果的です。



ただし
補色同士の絵の具を混ぜると
黒に近い暗いグレーになる
ということが分かっています。




試し塗りなどで
事前に色の混ざり具合を確認して

塗る場所を細かくコントロールしたり
工夫をすると効果が高まるかなと思います。




〈実例〉ザクロの水彩画と補色のはなし。

【図7】『ざくろ』制作中の風景。by NORi



前回は
「柘榴(ざくろ)」に鮮やかな色を
塗ってみましたが

今回は
もう一歩
メリハリを効かせて


【質感】や【立体感】を
つけていけたらと思いました。




私が描こうとしている
『柘榴(ざくろ)』の表面は

りんごのようなツルっとした
ものとは違って
ゴツゴツしています。


自然に実がはじけて
破れた皮は分厚く野性的で

不透明な茶色のまだら模様が
ついています。




どうやって描けばいいのか
悩ましいところでしたが、

今回はずばり!
【補色対比】を使いました。


陰影の色というと
なんとなく『青色』を
選ぶことがおおいのではないでしょうか。




ですが今回は
柘榴の影の部分の色として
あえて『青色』を使わずに


柘榴色の補色である緑色を使うことで
柘榴色の鮮やかさを引き立てながら
アクセントをつけてみました。



また
補色を混ぜたことで
柘榴の影の部分の明度も
ぐっと下がって

立体感も強まったかなと思います。


【図8】図7を白黒にしたもの by NORi







【ザクロの水彩画】色調とは?



ここからは『色調』について
考えていきたいと思います。


美しい新緑の風景などを眺めていると
植物によって
本当に様々な緑色があるな~
と感動してしまいます。




そんなとき
どのようにその緑色の違いを
説明すればよいでしょうか。


『とっても鮮やかな緑色』
『イングリッシュガーデン風の
お洒落な緑色』

『抹茶のような和風の渋い緑色』
『柔らかな緑色』などなど




ここからはそんな
なんとも表現の難しい
『色の説明』を代弁してくれる


【色調】について
ご紹介してみようと思います。


心の中に思い描く
素敵なイメージに合う
色選びに迷った時には

この【色調】の考え方が
役に立つかもしれません。




さて、
私達は普段

ひとつの作品を仕上げるまでに
何種類の色を
使っているでしょうか。


例えば花の絵を描こうとすれば
花びらの色や、葉っぱの色

さらには背景の色などもありますから
結構、沢山の色を使って描いている
ことも多いのではないでしょうか。




これだけ沢山の色を使っていても、
それぞれの色が自然と調和するように

『なんとなく同じ雰囲気を持った色合い』
というものを選んで
絵全体の雰囲気を整えながら
描いているのも不思議ですよね。


そんな
『なんとなく同じ雰囲気を持った色合い』
の事を【色調(カラートーン)】といいます。





『なんとなく優しい雰囲気を持った色合い』

=『優しい雰囲気の緑色・黄色・水色などの
組み合わせ』

=『優しい色調』

というわけです。


色調というのは
『明度』と『彩度』の度合いが揃った
色の組み合わせのことなのです。





ここで、
私なりに「優しい色調」
を集めてみました。




これらの写真を見ていると
優しい色調の色合いというのは

原色ほど目立った鮮やかさではなく
(『彩度』はやや低めの色合いで
揃っていて)、

さらに明るい感じの色
(『明度』は高めで揃っている
色の組み合わせ)
のように感じられます。




このように
『明度』が高く
『彩度』がやや低めの色調のことを

専門用語では
「ペールトーン(薄い色調)」

あるいは
「ライトトーン(浅い色調)」と呼ぶようです。




色選びに迷った時に役に立つ色調の考え方



絵を描いていると
ここだけはちょっと
目立たせたい


アクセントにもうちょっと
違う雰囲気の色を塗ってみたい


ということもありますよね。




例えば上の写真のように
真っ赤な袈裟の鮮やかな色調と

周囲から感じられる
どこか灰色っぽいニュアンス
を感じる静かな印象の色調
との
コントラストも素敵です。


実際にはこのように
様々な色調が折り重なるようにして
調和し合っている場面

というのが多いのではないでしょうか。




そんなときに
拠り所となるのは

あくまでも私達自身の中にある
『記憶』『体験』『感動』です。


これが
絵を描くための大切な源泉です。





自分の心の中にある
イメージや雰囲気を大切にしながら

それに合った色を選んでいけたら
きっと素晴らしい絵になるはずです。


しかし一方で
現実の場面の方に
何かの色に違和感があったり、

絵にするにはこのままではちょっと・・・
というように【色に迷う】という時も
あるかと思います。




その場合に助け舟を出してくれるのが
今回の【色調】の考え方というわけです。


目の前の色や
参考にしている写真の色味に
どうも違和感を感じたときは

その色を使わずに
絵として表現したい
雰囲気の方を優先して
『雰囲気に合った色合い』
つまり【色調】を意識して
色選びをしてみる


という考え方が
役に立つかもしれないというわけです。


調和を感じさせたい色味と
明度や彩度を揃えてみる
という方法ですね。<




〈実例〉ザクロの水彩画と色調のはなし。

【図9】『ざくろ』制作中の風景。by NORi



作品全体の雰囲気や【色調】を
どのように表現するかというのは
色々と工夫できそうです。


主役のモチーフで
絵の雰囲気を表現することもできれば、

むしろモチーフの周りの雰囲気が
絵全体の印象を決めることも
あるのではないでしょうか。


例えば
今回のわたくしの柘榴の作品で<
全体の雰囲気を決めるものは、
主役の「柘榴(ザクロ)」の存在感です。




主役のザクロの存在感をいかに
表現するかに
全てをかけております。


とにかく鮮やかで
赤黒いほどの強い色調は

「(色が濃いということは
最高明度の白からは離れているので)
明度は中位~やや低く、

(原色に近い鮮やかな色を使っているので)
彩度は高い」

という色合いを揃えることで
実現できるかもしれません。





また
主役の柘榴を引きたてるための
工夫として

周りの風景は柘榴の色と響きあう
ような強く鮮やかな緑色ではなく

あえて色調をずらして
彩度を低くした緑色を使ってみました。




机の色味は
風景にも柘榴にも邪魔にならない
穏やかな中間色を選ぶことで

絵全体にリズム感が出せたらな
と思いました。


それから
明度がグッと低くなる青色は
柘榴以外の部分の影色に使って
柘榴と器などが同化し過ぎないように
適度な立体感を出せたらと思いました。




制作の途中で
絵を白黒にしてみると

自分の工夫が
どれだけの効果になっているのかを
客観的に見ることができて
とても勉強になります。




【図10】図9を白黒にしたもの by NORi

 







【ザクロの水彩画】まとめ

『柘榴(ざくろ)』透明水彩画 by Nori


  • 修正の難しい透明水彩では、『明度』や『彩度』を意識した色塗りが役に立ちます。
  • 補色対比を使った色の配色は、塗った色をさらに効果的に魅せるアクセントになります。
  • 色調の考え方は、色の違和感を感じて色選びに迷ったときの強力な助っ人になるかもしれません。


絵の制作中に筆が止まってしまったとき、寄りどころとなるのは自然の姿ではないでしょうか。色彩理論はそんな自然の姿を教えてくれる強い味方です。

NORi

(動画再生時間:1分47秒)
※音楽が鳴りますので、音量の調整をしてご覧ください。

『柘榴(ざくろ)』透明水彩画 by Nori




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