《色彩科学で紐解く絵画》混色の限界を超える?スーラの点描画


NORi
こんにちは、NORi です。

今回のテーマは
『混色の限界とスーラ』です。

NORi
絵画制作において
色を混ぜたり重ねたりすることは
基本的な技術ですが、

直接パレットで色を混ぜようと
1色ずつ塗り重ねようとも

そこには
絵の具(色材)の【減法混色の原理】
働きます。
 

それは
使う色が増えれば増えるほど
どうしても画面は少しずつ暗くなる

という大原則で、

絵を描く上ので限界
とも言えます。

NORi
この大原則ともいえる
絵画の限界をくつがえしたのが
フランスの画家
ジョルジュ・スーラ
です。

 

今回は
そんなスラーの点描画について
ご紹介します。

 

【混色とスーラの点描】ジョルジュ・スーラと印象派


まずは、
今回のテーマの主人公となります
スーラについてご紹介します。

ジョルジュ・スーラ
(Georges Seurat, 1859-1891)

スーラは点描画の創立者として知られる
19世紀のフランスの画家です。
 

19世紀後半のフランスというと
印象派絵画が生まれた時代でした。

特に1870-1880年代は印象派が盛んで
スーラと同時代に

次のような印象派の画家達が
活躍していたのです。
 

印象派の創立と発展に貢献した
代表的な画家を四名挙げると

マネ・モネ・セザンヌ・ルノワール
あたりでしょうか。
 

まず、
印象派の代表というとマネです。

エドゥアール・マネ
(Édouard Manet, 1832- 1883)

マネは
革新的な作品に取り組み
印象派の先駆者として知られています。
 

それから、モネです。

クロード・モネ
(Claude Monet, 1840- 1926)

『印象派』という名前の由来となったのが
モネの描いた「印象・日の出」という作品
でした。
 

続いては
ポール・セザンヌ
(Paul Cézanne, 1839- 1906)

セザンヌは
1880年代から印象派のグループを離れ
さらに絵画様式を探究していきます。

そのため
ポスト印象派の画家としても
位置づけられていますが、

セザンヌの独自の取り組みは20世紀の美術界へと
大きな影響を及ぼし『近代絵画の父』
とも呼ばれています。
 

そして、ルノワールです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール
(Pierre-Auguste Renoir, 1841- 1919)

ルノワールもまたモネやセザンヌとともに
印象派グループで活躍していましたが、

後半は作風が変わっていき
ポスト印象派の画家とも言われています。
 

【混色とスーラの点描】19世紀の画家たちの課題


マネから始まる印象派、
そしてポスト印象派への流れの中で

19世紀の画家達は
自らが生きる日常生活という

『現代性(モデルニテ)』
絵画表現の課題としていました。
 

絵の具の開発が進み
戸外での制作が可能になったことで、

今までにない斬新な構図と
自然の光を写実的に描こうとする
印象派の流れが生まれました。
 

また
時間や空間によって変化する
光の正確な描写とともに
日常性というテーマを追求していきます。

スーラもまた印象派の影響を受けながら
独自の写実的な表現を極めようと

風景画や人物画の制作を通して
実験を繰り返していました。
 

印象派の成功によって
自然の『光』があふれる明るい画面が
立ち現れることになりましたが、

一方で
明るい『光』の表現のために
犠牲にしたものがありました。

それは写実性です。
 

モチーフの形や立体感に注目すれば
絵の具を重ねて陰影を表現しなければ
なりません。

それは
画面の明るさを落とすことにつながります。

【色彩科学】黒く濁らない混色のコツ。~減法混色と三原色~

そのため印象派の絵画の特徴である
自然の光あふれる明るい画面を
最大限活かすためには

緩やかでおぼろげな形でモチーフを表現するに
留める必要がありました。
 

一方でスーラは
自然観察の中で様々な着想を得ながら
ついに『点描』という新しい技法を
完成していきます。

スーラの点描画では
屋外の眩い光が美しい色彩によって
輝くように明るく表現されながらも

そこにいる人々や木々の様子がはっきり
見てとることができました。
 

スーラの新しい技法は
印象派の目指した明るい光の表現を
さらに深めたものと考えられ、

新印象派と呼ばれるようになりました。

スーラの影響を受けた
新印象派の代表的な画家に
シニャックがいます。

ポール・ヴィクトール・ジュール・シニャック
(Paul Victor Jules Signac, 1863- 1935)

シニャックはもともと
モネのような暖かみのある
カラフルな色彩を好んでいて

点描技法との組み合わせにより
独自の絵画表現へと発展させていきました。
 

クールカラーを好んだスーラーは
無口で変わり者だったようですが、

シニャックは明るい性格で
話し上手だったようで、
新印象派の芸術性を理論的に説いた
シニャックの貢献は大きいものでした。
 

同時代に生きた画家にゴッホがいます。

フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ
(Vincent Willem van Gogh, 1853-1890)

ゴッホは
オランダのポスト印象派の画家で
気難しい性格だったと言われていますが、

明るく話し上手なシニャックは
ゴッホとも信頼関係を築いていたようです。
 

ゴッホが耳切り事件を起こした直後に
シニャックはお見舞いに行っているそうです。

ゴッホの絵画は
↓こちらでも少しご紹介しています。

《色彩科学で紐解く絵画》3原色と補色|ゴッホの「ひまわり」

スーラやシニャックの新印象派の作品は
それまでの印象派の画家達に肯定的には
受け取ってもらえなかったようです。
 

スーラとシニャックの作品は
こちらでご紹介しております。

ジョルジュ・スーラ|印象派を超えた点描画家・作品紹介など

次の章では
スーラが点描画を生み出した
科学的・理論的な理由を
色彩学の視点からまとめてみようと思います。
 

【混色とスーラの点描】混色のしくみと限界


絵の具という色材を使った表現には

混色によって明るさが低減する
という大原則がつきまといます。

これは色彩学で明らかになっている
減法混合の原理と呼ばれるものです。
 

私達が普段みている色は
大きく分けて2種類あります。

テレビや映画など
暗闇でも見る事ができる
発光体の色

絵画や本など
暗闇では見る事ができない
物(色材)の色です。
 

色材の色を見るためには
光が必要になります。

絵画では
絵の具を混ぜたり重ねたりして
様々な色を作り表現していますが、

そこには
光に照らされた色材(絵の具)の
減法混色の原理という自然の法則が
横たわっています。
 

この減法混色の原理とは、

それぞれの絵の具(色材)には
光を吸収し光量を減らす性質があり、

それらの絵の具を混ぜたり重ねることで
光は絵の具にどんどん吸収され

画面から反射される光が減少することで
絵はどんどん暗くなっていく
という原則です。

【色彩科学】黒く濁らない混色のコツ。~減法混色と三原色~

そのため
印象派の画家達は

明るい光を表現するために
あまり色を加えずに工夫してきたのです。
 

そのため
モチーフの形を追求することを
手放しました。

陰影の表現には
より多くの絵の具の塗り重ねが
必要になるからです。
 

【混色とスーラの点描】光の混色とは


一方で
発光体の色というのは

絵の具の混色とは異なる性質を
持っています。
 

それは
発光体の色は混ぜると明るくなる
という真逆の特徴です。

これを
光の加法混色の原理といいます。

《色彩科学で紐解く絵画》3原色と補色|ゴッホの「ひまわり」

絵の具(色材)では
混色によって白を作ることはできませんが、

テレビなどの発光体では
混色によって白を作る事ができます。
 

たとえば野球のナイター球場などは
とても明るい光で照らされていますが、

青い光(水銀ランプ)と黄色い光(高圧ランプ)の
加法混色によって
目に優しい白色光を作っています。
 

この光の加法混色では
色を重ねるほど明るい色の光になり、

光の3原色の発光強度を調節し
組み合わせることで
あらゆる色を作ることができます。
 

【混色とスーラの点描】もう一つの混色原理


これまでご紹介してきた
発光体の加法混色
および
色材の減法混色は、

それぞれ色と色を混ぜて
あるいは
重ねることによって
他の色を作り出す方法でした。
 

ところが
なんと、
混色したようにみえてしまう

といった
人間の視覚の中で起こる特性を利用した
『視覚混合』というものがあります。

 

これは中間混色と呼ばれていて
次のような2つのパターンで起こることが
知られています。

  • 回転混色
  • 併置混色

ひとつ目の回転混色は
複数の色が塗られたコマを回転した際に
色の区別が出来ず1色に見える
といった現象です。

この時の1色は
それぞれ色の面積比に応じて
平均的な中間の色の明るさを示すことから
中間混色と呼ばれます。

この中間混色は、

色材の混色によって明るさが減る
色材の減法混色と異なるため

加法混色の一つとされています。
 

二つ目の併置混色
複数の色が細かく配置された
色のパターンを遠くから見ると

それぞれの色を見分けることが出来ず
1色に見える現象です。
 

縦糸と横糸の色が異なる織物なども
ある距離まで離れて見ると
混ざり合った1色の布に見えます。

この場合も回転混色と同じく
もともとの色が持っている明るさの
平均的な中間の明るさに見える
という特徴があります。
 

スーラの点描画の目的は
この『視覚混合』の効果でした。

次の章では
スーラの点描画の芸術的な意図に注目します。
 

【混色とスーラの点描】点描画の芸術的意図


目の中で混色されるというのも
言われてみると
良くある現象です。

このような
人間の持つ視覚の特性を利用して
絵画表現を試みたのがスーラでした。
 

彼は
絵の具の混色(減法混色の原理)によって
絵が暗くなるのを防ぐために、

絵の具を混色したり
塗り重ねたりせずに
直接キャンパスの上に筆で
小さな点として鮮やかな色を
そのまま乗せるようにして絵を描きました。

 

このような技法を『点描』と呼びます。
(筆触分割とも呼ばれています)

スーラの点描画
『グランド・ジャッド島の日曜日の午後』
という作品が有名です。
 

光の当たった広場の明るい雰囲気が
優しい色調で表現されています。

近くで見ると
鮮やかな色の点が
画面を覆っているのがわかります。
 

離れて絵を見る際には
それらひとつひとつの点で表された単色を
個別に認識して見る事は出来ません。

そのため隣り合う小さな点の色が
混ざり合ったように見え、

平均的な明るさの色として
私達の目には映ります。
 

点描画は色自体が直接混ざり合った
減法混色ではなく、
加法混色に含まれる中間混色の一つである
『併置混色』に含まれます。

 

併置混色による
スーラ―の点描画では、

隣り合ったひとつひとつの色の点は
目の中で完全に混色されるわけではなく

見方によって
それぞれの色点がちらちらと出現しては
消えるような錯覚によって

まるで
鮮やかな光がキラキラと眩しい揺らぎを
放っているような

そんなイメージを抱かせる効果を
発揮することとなりました。
 

スーラは
最新の光学理論や色彩学の研究から学び、

点描という技法が画面を明るく保ち
さらに光の表現をさらに高める効果を持つ
ということを確信したのでしょう。
 

スーラが用いた理論に
もう一つ『補色対比』というものがあります。
 

【混色とスーラの点描】補色対比効果


青や赤といった様々な色味のことを
色相と呼びます。

色相というのは
単色で見る時と

近くに他の色が配置されている場合とでは
見え方が変わります。
 

併置混色による
スーラ―の点描画では、

単色として鮮やかな色相を選ぶだけでなく

隣に置く色にも色彩学の知識を踏まえて
効果的な配色を実践しています。

 

実は
ある単色の色味のすぐ横に
その色味の補色がある場合

彩度が高く『見える』
という現象が起きます。
 

補色とは
色相環の反対側に位置する色で

赤色と緑色
黄色と紫色などが
補色関係です。

 

様々な色相を円状に配列したものを
色相環と呼びますが、

色相環の円の中心を通る直線上にある
向かい同士の色(反対側に位置する色)が
『補色』です。

【色彩科学】心で感じ色を奏でる|十二トーンとPCCS色相環

《色彩科学で紐解く絵画》3原色と補色|ゴッホの「ひまわり」

【色彩科学】有彩色とは|色の種類と三属性-色相・明度・彩度

たとえば
同じ赤色という単色を
グレーの背景と組み合わせるのと、

赤色の補色である
緑色の背景と組み合わせるのとでは

緑色の背景に赤色を組み合わせる方が
赤色がより鮮やかに鮮明に見えます。
 

この現象は
『補色対比』と呼ばれています。

色相差が対照的な補色同士を
組み合わせた配色の場合に起こります。
 

補色は色味(色相)が大きく違うので、

色の変化が激しく
目には刺激の強い過激な印象を与えます。

また
彩度の高い鮮やかな色同士で
補色対比の配色を作ると

目がチカチカしてハレーションを起こす
ということが分かっています。
 

スーラの点描技法では
この効果を活用して

彩度の高い明るい色を引き立てるように
補色を組み合わせ、
光のキラメキを表現しています。
 

このようにスーラは
当時の最新の色彩学および光学理論をもとに
『視覚混合』の効果を最大限に活かし

点描(筆触分割)技法を
理論的かつ科学的に体系化していきました。
 

【混色とスーラの点描】- まとめ

  • 減法混色の原理から、絵の具の混色・重ね塗りはどうしても絵を暗くしていきます。
  • 人間の視覚の特性を利用した中間混色では、複数の色が混ざり合ったように見え、平均的な明るさの色として認識されます。
  • 豊かな自然観察から生まれたスーラの点描画は、視覚混合の効果を最大限に活かした併置混色・補色対比を意図した科学的な技法です。

 

NORi
点描というのは
色彩学および光学理論を良く理解した
凄い技術ですね。
 

それにしても
大きな画面を様々な色の点で
埋めつくすというのは
大変な手間だったに違いありません。
 

スーラは完成作品を仕上げるまでに
素描や下絵で十分に構想を練ってから
制作に入ったと言われています。