『絵の具を100色買いました。』は、圧倒的な美しさを誇る透明水彩に特化した学びサイトです。透明感あふれるみずみずしい絵を描くための基本的な知識や色彩科学の視点に基づいた実践的な技術などwatercolorist NORiがご紹介していきます。

透明水彩のための水張りとは?|基本の平張り手順6STEP

    
\ この記事を共有 /
透明水彩のための水張りとは?|基本の平張り手順6STEP

こんにちは、NORi です。
今回のテーマは『透明水彩のための水張り』です。水張りというのはとても画期的で本当に素晴らしい方法だなぁとつくづく思うのですが、皆様いかがでしょうか。

私は普段、水をたっぷり使った透明水彩を専門として絵を描いておりますが、この水張り無しではまともな作品に仕上げることは難しいです。今回はそんな紙にとって特別な環境を作り出す透明水彩の特徴透明水彩に特化した失敗しない水張りのためのポイントをいくつかご紹介してみようと思います。

NORi

【水張りのやり方】透明水彩の宿命

want-to-draw

紙の吸水性の確認作業 by NORi



紙は水に濡れると
水を吸収して柔らかくなり
伸びたり波打ったりします。
 

吸水性の良い
薄い紙になると

あっという間に
紙が波打ちます。
 

一方で、
たとえば600g/m2もあるような
相当厚みのある紙を除いては

ほとんどの水彩紙で
同じような現象が起こります。

 

水彩画の中でも最も水を使う
透明水彩では

この紙の波打ちは
ひときわ激しいものになります。
 

制作中に
このような波打ちが発生すると

紙の凸凹によって
絵の具が水たまりのように
溜まってしまったり

紙のヨレに沿って
絵の具が流れてしまったり

思い通りの絵を描くことが
できません。
 

水を操る透明水彩には
吸水性・保水性の良い紙が
どうしても必要です。

それは同時に
紙のヨレや波打ちが
必ずと言っていいほど発生する

ということでもあるのです。
 

紙の波打ちと向き合うことは
透明水彩の宿命といえるでしょう。
 

【水張りのやり方】いつ、どんなときに必要?




水によって
どうしても波打ちが発生する
紙という素材を使って絵を描く
水彩画において

水(絵の具)を乗せても
波打ちを起こさないような紙があったら
それは理想的です。
 

そんな理想的な紙を手に入れる
ひとつの方法としては、

たとえば600g/m2もあるような
相当の厚みのある水彩紙を使う
という選択肢があります。

 

気に入ったメーカーの
気に入った肌目の水彩紙で

そこまで厚手の紙があれば
ラッキーですね。
 

もうひとつの方法が、

少しの工夫で
波打ちが起こりにくい紙を
誰でも作ることができる
【水張り】をする
という選択肢です。

 

絵を描く前に
【水張り】を施した紙を準備すれば

波打ちのほとんどない状態で
水をたっぷり使って絵が描けます。
 

魔法のような方法だと
思いませんか?
 

特別に厚手の紙を使わないなら

紙が波打つような水の量で
絵を描く前提にある透明水彩では
この【水張り】は必須といえます。

 

実は
鉛筆画やパステルがのように
水を全く使わない絵でも

【水張り】は大変有効です。

紙が板にしっかり固定されていて
描きやすいというのも理由の一つ
ですが、

より積極的な理由がもう一つあります。
 

それは
鉛筆画やパステル画の場合

鉛筆の黒鉛やパステルの粉が
かすれたりするのを防ぐために

完成作品の上から
フィキサチーフと呼ばれる
コーティング剤を吹きかけて
粉を定着させるからです。
 

そのフィキサチーフの水分で
紙が波打ってしまうのです。
 

最後の最後で
紙が波打ってしまったら
作品が台無しですね。

そのため
鉛筆画やパステル画の場合も
【水張り】した紙の状態で
絵を描き、

仕上げに
フィキサチーフを吹きかけ

完全に乾いてから、

【水張り】した状態の紙を
板から外して額装する
という順番にすることで

ぴーんと張った綺麗な作品が
仕上がるというわけです。
 

【水張りのやり方】どうする?《水張り6step》




水張りとは
紙が水分を吸収して
波打つのを防ぐために

あらかじめ
紙に水を吸収させて
紙を伸ばした状態で
板に固定してしまう方法です。

 

水張りした紙は
ぴーんと張った状態で
板に貼り付けられているため

水分を吸収しても
もはや波打つことなく
綺麗に絵を描くことができます。
 

ここでは
水をたっぷり使って絵を描く
透明水彩を想定した

水張りの手順を6ステップで
ご紹介しようと思います。
 

■ ステップ1)水彩紙に水を吸収させる

水張りの様子 by NORi



透明水彩で使う紙は

水彩画専用の
『水彩紙』を使います。
 

透明水彩は
水をたっぷり使う技法なので

吸水性・保水性の高い
コットン素材の水彩紙
がおすすめです。

それから
水張りに耐えるだけの強度(厚み)
透明水彩のための水彩紙には必要です。

300g/m2 以上の厚みのある
水彩紙がおすすめです。
 

透明水彩というのは
紙にとっては一番厳しい条件を強いる
技法なのかもしれません。

その分
透明水彩における紙選びは
とても大切です。


水張りの最初のステップは
【水彩紙に水を吸収させる】
ということなのですが、

その方法は色々あります。

例えば
次のような3つの方法があります。

  1. 水を含ませた刷毛を使って
    紙に水を張る方法
  2. 霧吹きを使って
    紙に水を吹きかける方法
  3. 洗面台や浴槽などを使って
    紙を水に浸す方法

透明水彩の技法は
絵の具の透明度の高さを
最大限に活かすもので、

紙の白さと
紙の肌目がそのまま透けて見え
作品の一部になります。

 

そのような特徴を踏まえますと
出来るだけ紙の肌目を荒らさない
(こすらない)

穏やかな方法を選ぶのが
無難かと思います。

まずは③の方法をおすすめします。
 

もしも
③の洗面台や浴槽が使えない場合

あるいは
洗面台や浴槽に入りきらない
大きな水彩紙を水張りする場合には

②の霧吹きをつかって
自然に紙が吸水する方法を
選ぶと良いと思います。
 

■ ステップ2)水彩紙がふやけて完全に伸び切るところまで吸水させる




基本的な水張りというのは
紙の伸縮性を活かして

乾燥している状態よりも
少しでも伸びた状態で
水張りをしておけば

制作中に紙が多少伸びたり
凸凹したとしても


最終的に紙が乾燥したときには
綺麗にぴーんと紙が張った状態で
仕上げることができる

というものです。
 

ただ
透明水彩においては
これでは不十分な場合があります。

なぜならば
制作中に波打ってしまったら
水張りの意味がないからです。
 

透明水彩は
まさに紙を水で浸しているような状態で
絵を描くので、

中途半端に紙を濡らして
水張りしても

制作中には
さらに波打つ可能性があるのです。
 

紙を乾燥させれば
ぴーんと張った
綺麗な状態になりますが、

制作中に
凸凹と波打ってしまったら
透明水彩の美しい色を
的確に紙に置くことは出来ません。

 

透明水彩でなければ

水張りの段階で
【紙が完全に伸び切る】ところまで
徹底して吸水させる

という必要はないと思いますが、

透明水彩ではむしろ
ここがポイントになるかと思います。
 

透明水彩は
本当に水と向き合う技法ですね。
 

水彩紙の種類によって
【完全に伸び切るまでの時間】は
異なるかと思います。

紙の厚さや肌目の様子で
紙の吸水スピードも
紙が吸収する水分量も違うからです。
 

はじめて使う水彩紙を
水張りする時は

実験のつもりで
水彩紙の伸び切る様子を観察して
時間をはかっておくと良いですね。
 

■ ステップ3)伸び切った水彩紙を水張りテープで板に貼り付けて固定する

水張りの様子 by NORi



水彩紙を貼り付けるための
水張りテープ』と『木製パネル』を
準備します。
 

水張りテープ』とは
水張り専用の
かなり強力なテープで

濡れた状態のまま水彩紙を
板に貼り付けることができます。
 

木製パネル』とは
合板の裏面に角材を組んで
補強された軽量の支持体で、

水彩画の水張りに使われるだけでなく
油彩画のキャンバスを張ったりするのに
使われているものです。
 

さて
水張りに話を戻しますが、

水彩紙が完全に伸び切ったところで
濡れたままの水彩紙を
木製パネルの上にそっと移動します。

それから
水張りテープで
水彩紙を木製パネルに固定するように
貼り付けます。
 

このとき
水張りテープの強力な糊が
水彩紙の絵を描くところに
垂れないように気を付けます。
 

水張りテープを貼り付けた後は
キッチンペーパーなどで
水張りテープの上を軽く抑えるようにして

余分な水分を取り除きながら
木製パネルと水彩紙に
水張りテープがしっかり密着しているか
確認します。
 

■ ステップ4)そのまま完全に乾かして【水張り完了】

水張りの様子 by NORi



水張りテープで
水彩紙をしっかり固定した
木製パネルは

紙の面が水平になるよう
平らなところに置いて

自然乾燥させます。
 

丸一日放置すれば
ほぼ完全に乾きます。

乾燥している間に
紙は水によって伸び切った状態から
元の状態に戻ろうと
徐々に縮み出します。
 

しかし
すでに強力なテープで
板に固定されているために
紙は縮むことが出来ずに

そのまま
張り詰めた状態で乾きます。

完全に乾燥した頃には
ぴーんと張った
綺麗な水彩紙の出来上がりです。

 

乾燥させるときは
直射日光には当てず
室内や日陰で乾かします。

急激に紙が縮むような状況になると
紙が破れたり
部分的にヨレが出来たりする
場合がありますので、

全体を均一に
ゆっくりと乾燥させるように
した方が良いです。

 

これで【水張り完了】です。
 

■ ステップ5)板に貼り付けた紙の状態のままで絵を描く

制作の様子 by NORi



【水張り】して
木製パネルに貼りつけた水彩紙は

一度完全に乾かしてから
絵を描き始めることができます。
 

一度完全に乾かすことで

強力な水張りテープが
木製パネルに紙をしっかり
固定してくれます。
 

その後は

水をたっぷり使う透明水彩でも
紙はピーンと張ったままです。
 

制作中に紙が波打つこともなく
綺麗に絵を描くことができます。

素晴らしいですね!
 

■ ステップ6)絵が完成したら完全に乾かし、額装の直前で絵を木製パネルから外す




絵が完成したら
木製パネルから紙を外します。
 

ちょうど
水張りテープの中央あたりの
紙のサイズに合わせて

カッターで切り目をつけながら
紙を外していきます。
 

木製パネルから外した水彩紙は
とても無防備な状態です。

水を吸収すれば
すぐに波打ってしまいます。
 

少しでも湿っていたら
徐々に紙は波打ちます。

木製パネルから外す前に
紙は完成に乾かし切りましょう。
 

また
絵が完成したと思っても
しばらく眺めていると

また手を加えたくなる
ということは良くあることです。
 

そのようなことも考えると
作品が完成しても

額装の直前までは
木製パネルから絵は外さずに
保管しておく

という方が
良いのではないかなと思います。
 

【水張りのやり方】『平張り』と『パネル張り』

『平張り』の様子 by NORi



水彩紙を水張りするには
木製パネルに固定するわけですが
(前章ステップ3)

その固定の仕方には
2通りの方法があります。

 

『平張り』と『パネル張り』です。

簡単なのは『平張り』です。
 

平張りは
木製パネルの上に
吸水させた水彩紙を置いて

紙と板がしっかり固定されるように
貼り付ける方法です。
(上の画像)
 

描きやすさという点では
ひと作品(1枚の水彩紙)ごと
木製パネルに水張りする
のが良いのですが、

小さな絵を何枚も
同時に描くような場合には

一枚の木製パネルの上に
紙を複数枚並べて
水張りするのも手です。
(上の画像では
2枚同時に水張りしています。)
 

このように『平張り』が
木製パネルの【上】
紙を貼りつけて固定するのに対して、

『パネル張り』は
木製パネルを【水彩紙で覆う】ようにして

パネルの側面あるいは裏面で
水彩紙を固定する方法です。
 

『パネル張り』の様子 by NORi



上の画像は
『パネル張り』の様子ですが、

水彩紙を木製パネルの裏側まで
覆って

強力なホチキスを使って
木製パネルの裏側で
水彩紙を留めています。
 

平張りに比べて
少し手間がかかるかなと思います。
 

パネル張りは
そのまま油彩画の額などにはめ込んだり

そのままでも様々なスタイルで
飾りつけを楽しむことができるので
人気が高い方法です。
 

紙をずっと貼り付けたまま
長期保存をすることになるので

パネル張りをする際の
木製パネルの素材としては

木材からのアクが出にくい
白っぽい「シナ合板(シナベニヤ)」
がおすすめです。

 

【水張りのやり方】簡単『平張り』方法

水張りの準備の様子 by NORi



ここでは洗面台を使って
簡単に『平張り』する

一連の作業の流れ
ご紹介してみようと思います。
 

① 水彩紙を水に浸す




この時のポイントは

  • 洗面台は綺麗に掃除してから
  • 紙は作品サイズよりも2cmほど大きく
  • 紙の裏面に鉛筆で薄く【〇印】を

紙が充分に伸び切るまでの
浸水時間は
紙によって異なります。
 

ここでは
比較的吸水スピードが穏やかな
ARCHESを使っていますが、

片面15分で
ひっくり返して

両面で30分
浸水しています。
 

これくらい浸水すれば
十分に紙は伸び切った状態に
なります。
 

今回は
2枚の水彩紙を

同時に水張りしていますが、

水彩紙1枚(作品1枚)に対して
木製パネルも1枚用意する方が
良いです。
 

今回の水張りは

1枚は本番用で

もう1枚は試し塗り用の紙なので、

同じ木製パネルに
並べて水張りすることにしました。
 

② 木製パネルの準備




木製パネルは
合板の種類によって

茶色いアクが出たりします。
 

透明水彩の技法は
水をたっぷり使うため

絵を描いている最中に
木製パネルのアクが
溶け出してくる場合があります。

この茶色いアクが紙につくと
取れません。
 

木製パネルから
このようなアクが出ないか
事前にチェックする必要があります。

まず試しに
塗れたキッチンペーパーなどで

木製パネルの表面をこすります。
 

このとき
茶色くなるようでしたら、

タワシなどで一度ゴシゴシと
洗い流して

アクをきちんと
取り除くことをおすすめします。
 

透明水彩は
何よりも

紙の白さを活かすことで
スタートする技法ですので、

意図せずに
木製パネルのアクが滲むようなことは
避けたいところですね。
 

ちなみに
『パネル張り』のところでも
ご紹介しましたが、

このようなアクが出にくい
木製パネルの素材は


白っぽい「シナ合板(シナベニヤ)」です。

 

紙の白さが命の
透明水彩においては

できれば
このような木製パネルを
選ぶことをお勧めします。
 

③ 水張りテープの準備




完成イメージに合わせて

必要なテープを
用意します。
 

通常は

1枚の水彩紙の
上下左右を留めるだけですので、

水張りテープは4本です。
 

水彩紙の上下の辺の長さより
十分長めのものを2本と

水彩紙の左右の辺の長さより
十分長めのものを2本です。
 

今回の完成イメージは
以下の通りです。

 

④ 水張りテープで水彩紙を固定




十分に水彩紙が
伸び切ったら

木製パネルにそっと
水彩紙を移動して

水張りテープで
固定します。
 

この時のポイントは

  • 【〇印】が裏側になるように確認
  • 水彩紙はそっと木製パネルに乗せる
  • 残った水を水張りテープの糊面につける
  • 水張りテープは水が付いたらすぐに使う

塗れた水張りテープを
塗れた水彩紙の上から
貼り付けるので

結構、水浸しです。
 

水張りテープを貼ったら

余分な水分を取り除くように
水張りテープの上から
キッチンペーパーなどで
軽く抑えるようにして

しっかりと水彩紙と木製パネルを
密着させるようにします。
 

⑤ 平らなところで自然乾燥




水張りが完成したら

直射日光に当たらないところで
自然乾燥させます。
 

紙に含まれた水分が偏ったり
しないように

紙が均一に
ゆっくりと縮まるように

平らなところで
乾かします。



【水張りのやり方】まとめ

want-to-draw


  • 水彩紙にとって過酷な技法である透明水彩では、水彩紙の水張りは必須です。
  • 水張りとは、制作前にあらかじめ水彩紙を十分ふやけさせた状態で木製パネルにしっかりと固定してしまう方法です。
  • 絵が完成したら、額装する直前まで木製パネルから作品を切り外さないことをおすすめします。


透明水彩ならではの美しい作品を制作するためには、やはり事前の水張りは大切な大切な工程です。ぴーんと張った美しい紙で、素敵な作品が綺麗に仕上がりますように!

NORi




🔻関連記事

Copyright©絵の具を100色買いました。,2024All Rights Reserved.