透明水彩と不透明水彩|絵の具の違いと難点《混ぜるも可》
こんにちは、NORi です。
画材屋さんで水彩絵の具を探そうとすると、透明水彩コーナー・不透明水彩コーナー・マット水彩コーナーという風に絵の具が分かれて並べられている様子を目にします。同じ水彩絵の具でも色々と種類があって迷いますね。
今回はそんな水彩絵の具の種類や特徴の違い、さらに透明水彩と不透明水彩という2つの技法についてご紹介しようと思います。イメージに合った技法で楽しく絵が描けますように!
NORi
【透明水彩と不透明水彩】技法の違い

水彩画には
- 透明画技法
- 不透明画技法
【透明画技法】は
透明度の高い絵の具の特性を活かして
たっぷりの水で絵の具を薄く溶かし、
紙の白さを透かして見せるように
色を塗り重ねていく方法です。
水との親和性を利用したぼかしなど
繊細な表現が効果的な技法です。
この技法にぴったりな絵の具が
透明水彩絵の具です。
色を重ねると
下の色が透けて見えるため
透明感を活かした奥行きのある
色のハーモニーによって
ひと塗り、ひと塗りの色の積み重ねが
全て作品の仕上がりに影響します。
透明水彩は水をたっぷり使うため、
適切なタイミングで絵を乾燥させながら
色を重ねていく必要もあります。
また、
紙の白さを塗り残すことで
紙の白さや質感も
作品の一部として活用することができます。
このように
透明水彩では紙選びも
大切なポイントになります。
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一方、【不透明画技法】は
隠蔽度の高い絵の具の特性を活かして
少しの水で絵の具をクリーム状に練って、
下層を覆い隠すように
色を塗り重ねていく方法です。
油絵のような厚塗りなど
重厚な表現が効果的な技法です。
この技法にぴったりな絵の具が
不透明水彩絵の具です。
透明水彩とは異なり
不透明水彩は下の色を隠す事ができるため
何度も塗り直しができ、
一番上の層にある色が作品となります。
また、
不透明水彩絵の具は
透明水彩絵の具よりも乾きが早いので、
思いのままにどんどん色を塗り重ねる
ということができる軽快さが魅力です。
【透明水彩と不透明水彩】絵の具の違い

透明水彩絵の具と、不透明水彩絵の具の違いは
基本的には色の粉(顔料)と糊(展色材)の
配合比の違いです。
透明水彩絵の具と、不透明水彩絵の具は
製造に用いられている原料や製造方法は
全く同じで、
色の粉の量が多くなると
不透明性が高くなっていきます。
水彩絵の具の展色材(糊)には
アラビアゴム
という水溶性の木の樹脂が使われていて、
この濃度が高いものを
透明水彩絵の具と呼び、
濃度が低いものを
不透明水彩絵の具(ガッシュ)と呼びます。
透明水彩と不透明水彩を
混色して使うこともできます。
また、
不透明水彩絵の具は
透明水彩絵の具に比べて粘度が高く
使うたびにチューブから出して
柔らかいままで使います。
一度固まると絵の具はもちろん
パレットも使えなくなりますので、
絵を描き終えたら毎回パレットは
綺麗に洗うことが大切です。
【透明水彩と不透明水彩】技法の難しさ

水彩に限らず
色々な技法には
それぞれの特徴や利点がありつつも
それぞれの難しさというものも
あると思います。
透明水彩は難しい
という言葉を時々耳にします。
ここでは
不透明水彩との比較から
透明水彩の特徴と技法の難しさについて
ご紹介しようと思います。
油絵などの不透明な絵の具で
絵を描いてこられた方から
「水彩画が一番難しい」
という感想をよく伺います。
それは透明水彩絵の具の特徴である
透明度の高さが
制作中の軌道修正を難しくしていることと
関係しているようです。
不透明な絵の具では
下に塗っている色の影響をあまり受けずに
上から塗り重ねていけるので
途中で軌道修正をすることができます。
違う色を何度塗り重ねたとしても
最終的には表面に乗っている絵の具だけが
完成作品としての絵になるからです。
また、
そのような塗り方が出来るために
不透明な絵の具を使えば
キャンパスの上に色を塗りながら
徐々に絵を整えていくという方法も
取ることができます。
途中で修正できる不透明水彩の方が
描きやすい場合もありますね。
このように
油絵などの不透明な絵の具では
とにかくまずは絵に取り掛かることができる
というのも大きな利点かもしれませんね。
一方で、
透明水彩では
これらのどれも出来ません。
いくら色を重ねても
下の色が透けて見えるため
完全に軌道修正することは難しいです。
そのため
透明水彩では
薄い色を少しずつ塗り重ねていくことが
失敗しにくい方法でもあります。
薄い色で塗っておけば
すぐにふき取れば比較的簡単に
取り除くことができるからです。
それでも
ふき取った部分にシミが残れば
やはり綺麗な紙とは
違う状態になっているので
色を重ねていくことで
そのシミが色の濁りや暗さとなって
制作の後半で目立ってきてしまう
ということもあります。
また
混色(あるいは塗り重ね)によって
一度明度が下がると
絵の明るさを取り戻すことは難しいです。
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そのため
透明水彩では
色を塗る順番や
塗り重ねた後のイメージを
あらかじめ頭の中に描いておく
という
事前準備が有効です。
この事前準備のステップを挟むことで
透明水彩だからこそできる
美しい表現が
失敗せずに塗れるようになります。
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また
透明画技法を使う場合は
水をたっぷり使って描くため
紙がどうしても波打って凸凹してしまいます。
そのために
水張りが必要になります。
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不透明画技法では
クリーム状の絵の具で塗っていくので
紙の水張りも必要なく、
絵の具の乾きも早いため
短時間でどんどん描き進めていけます。
不透明水彩と透明水彩では
それぞれ利点と難しさがありますが、
表現したいものや制作スタイルなどに
ぴったり合った画材を使って
自分の表現を磨いていけたらいいですね。
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【透明水彩と不透明水彩】混ぜて使う方法
透明水彩絵の具と不透明水彩絵の具は
混色して使うこともできます。
また、
透明水彩絵の具による透明画技法と
不透明水彩絵の具による不透明画技法とを
混ぜて表現することも可能です。
透明水彩で絵を描いた上に
不透明水彩を重ねることも、
逆に不透明水彩の上から
透明水彩で色を重ねることも出来ます。
例えば、
先に不透明水彩で色を塗ってから
最後に透明水彩で色を重ねると
不透明水彩で塗ったベースの色を
しっかり活かしながら
部分的に透明水彩でニュアンスを変えたり
繊細な色の変化を加えたりすることができます。
透明水彩絵の具の中にも
白が混色された不透明性の強い色もあります。
それは不透明水彩の技法にも使えます。
白が混ざっていることで
カバー力のある絵の具になっていますが、
薄く溶いて塗れば透明感も味わえます。
日本では
学校教育で水彩画を取り入れる際に
透明水彩技法の修正ができない難しさ
を考慮し、
水彩画らしい水による絵の具の濃淡や
ぼかしなどの技法も使える
マット水彩というものが開発されました。
たっぷりの水で絵の具を溶けば
透明画技法で色を塗ることができ、
水をあまり使わずに絵の具をそのまま使えば
不透明画技法にもなるという
中間の特徴を持つ絵の具です。
これによって
子供達が失敗を恐れずに自由なスタイルで
絵を描く事が出来る環境が整ったというのは
素晴らしいですね。
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【透明水彩と不透明水彩】メリハリのあるイラストと不透明水彩
不透明画技法では
白の絵の具を混ぜて使うこともできる
というのが透明画技法との大きな違いかと思います。
透明画技法では
白の絵の具は使わずに
紙の白さを活かすようにして
塗り残すことで白を表現するからです。
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不透明画技法では、
明るい部分を表現するときは
絵の具に白を多く混ぜて使います。
白を多く混ぜることで
絵の具の明度を高くすることができます。
一番明度の高い色は単色の白です。
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特に、
白い絵の具を使って
最後にハイライトを入たり
細かい光の描写ができるのは
大きな利点かと思います。
また、
不透明水彩では黒を混ぜて魅力的な色を
作ることもできます。
こんな美しい色ができるのかと
感動するような混色マジックが起こります。
不透明水彩絵の具はカバー力があるので
塗る順番を気にすることなく
直感力やひらめき、感動といった感性を
大胆なタッチですぐに描き留めることが出来ます。
少しずつ上から修正を繰り返すように
色を厚く塗り重ねていくことで
臨場感のある表現に向いているので
写生など野外のスケッチにも適しています。
ムラができにくく
柔らかいマットな色調を表現することができ
たっぷりの絵の具でしっかり色付けする
デザイン画やイラストなどにも合っています。
一方で、
透明画技法では
白い絵の具はあまり使わずに
紙の白さを活かす方法をとります。
水をたっぶり使って絵の具を溶くことで
絵の具の濃淡を調整することができ
紙の白さを活かした明るい表現が可能です。
【透明水彩と不透明水彩】透明水彩は画材選びがポイント
透明水彩画の制作風景 by NORi
透明水彩絵の具を使った
透明画技法では
水で溶くことで生まれる
のびのびとしたタッチや
にじみやぼかしの色の濃淡で魅せる美しさ、
様々な色がふんわりと混ざり合う
優しい色彩が魅力です。
水をたっぷり使って
薄く溶いた絵の具の濃淡や
淡いグラデーションなど
繊細な表現を得意とする透明画技法ですが、
それを可能にするのは
絵の具と水の性質と良く合った画材選びです。
透明水彩では特に
使う画材の質が大切になります。
透明水彩は修正しにくく
水でコントロールする技法なので
できるだけ水との相性が良く
快適にスムーズに塗れる道具(画材)を
揃えることが大切なポイントになります。
特に大切なのが
- 紙
- 絵の具
- 筆
それぞれ選ぶポイントは
- ある程度の厚みがあり、水を良く含むコットン100%の丈夫な水彩紙
- 水に良く溶けて発色の美しい絵の具
- 水の含みが良く弾力のある筆
となります。
水との相性が
画材の良し悪しを決めるのは、
水をたっぷり使うことで可能となる
透明画技法ならではの宿命とも言えます。
透明水彩のおすすめの画材は
↓こちらでもご紹介しております。
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【透明水彩と不透明水彩】まとめ

- 不透明水彩技法は絵の具に白を混ぜたカバー力のある技法で、感動をすぐに描きとめながら作品を作り出していくことが出来ます。
- 透明水彩技法は紙の白さまで作品の一部になる『透ける』技法で、淡く繊細な色の表現が可能です。修正が難しく、事前に完成イメージを作ります。
- 透明水彩は水との相性の良い画材を揃えてから始めるのがポイントです。
作品の雰囲気がガラリと変わる透明水彩と不透明水彩ですが、どちらにも独特の魅力があり別の難しさがあります。自分が魅力を感じる作品と出会って、その技法を学ぶことが上達の近道かもしれません。
NORi